昔の証言を元に沖縄のミキを口噛みで作る

2018/04/13 11:00 

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ちしきの金曜日
 

昔の証言を元に沖縄のミキを口噛みで作る

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沖縄にミキという飲み物がある。このミキはもともと乙女が口噛みして作っていたらしい。じゃあ口噛みで作ってみようじゃないかミキを。おっさんだけど。
(やんばるたろう(DEEokinawa))

沖縄のミキとは何か

沖縄に「ミキ」と呼ばれる飲み物があるのをご存じだろうか。
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大まかには細かく砕いた米に砂糖を加えて炊いたものを軽く発酵させたもので甘いおかゆ(米の原型はないのでおかゆというよりも重湯?)みたいなもの、もしくはくら寿司の「シャリコーラ」から炭酸を抜いてもっと濃厚にした感じのものを想像して欲しい。あまりメジャーな飲み物ではないのだが、県内のスーパーでは缶入りのものが手に入るし、市場周辺でも販売されていたりする。
ペットボトルに詰められた自家製ミキ。南風原町。
ペットボトルに詰められた自家製ミキ。南風原町。
これは那覇市松川の綱引きでもらったもの(旧6月15日前後の週末)
これは那覇市松川の綱引きでもらったもの(旧6月15日前後の週末)
ミキはもともとは沖縄の農耕儀礼で振る舞われる飲み物で、今でも地方によっては旧暦の6月近辺の行事で手作りのミキがでてきたりもする。好みが分かれるのだが、割と僕は好きな方だ。

さて。そんなミキだが、もともとは乙女が噛んだ米を材料にした口噛み酒だったという。とはいえ沖縄本島ではかつてそうだった、という話がほとんどで実際に作ったことがある、作っていたという話は全然聞いたことがない。なのでなんとなくこの話にリアリティを感じていなかったのだが、この前調べ物をしていたらこのミキを口噛みで作ったという人の話が見つかったのだ。

ばあは口噛酒を造った~新垣カナさん(90歳)~(昭和55年2月26日)

もう記事のタイトルからしてすごいのだが、見つけたのは泡盛の情報を扱った「醸界飲料新聞」の1980年の記事で伊平屋島の我喜屋(がきや)という集落でその昔口噛みでミキを作っていたという90歳のおばあさんの話が掲載されている。
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原材料、米。以上。

記事では割と詳細に口噛みでミキを作る工程にも触れられており、これなら自分でも作れそうだった。ならば作ってみようじゃないか。口噛みでミキを。
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さて、まずは材料は米。というか材料として触れられているのは米だけである。ただし記事内では分量が明記されていなかったのでとりあえず口噛みしてつらくない程度の分量を考えて米を用意した。コップに二つに分けておく。
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記事にあるレシピでは「2-3時間くらい浸米しておいた」と書かれているので、片方の米は水につけてしばらく置いておく。ミキ造りの証言を見てみると口噛みした米と水に漬けおいて細かく砕いた米が必要らしい。こちらは細かく砕く方の米である。

続いては米の口噛みの米の登場だ。記事では
まず、七、八人の美女で処女達が、歯ブラシのない当時だから塩で口中がただれる位い何度も洗い清めてから…
と書かれているのでとりあえず塩で口の中を清めておく。
血圧が上がる
血圧が上がる
本来であれば口噛みのために「美女で処女」を探す必要があるのだが、SNSで呼びかけようものなら軽く炎上しそうな気がしたのでそこは自分でやることにした。ひょっとしてここまで記事を読み進めている人の中には美女の登場を期待していた人もいるかもしれない。この記事は下までスクロールしてもずっとおっさんしか出てこない。期待してたらごめんなさい。
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口の中を清めたら、いよいよ口噛みの作業の始まりである。上の写真を見て「生米を噛むのかよ!」と思った方もいるかもしれない。

大ヒットした映画「君の名は。」でも口噛み酒を作るシーンが出てきており(しかしすみません。僕は見たことがないのです)、Yotubeなどで検証動画がたくさんアップされている。検証動画では炊いたご飯を噛んでいるので、生米を使うのはなんだか間違っているように思えるのだが、これにはちゃんと理由がある。ミキ作りの証言を見てみよう。
後三時ごろから噛み始めてうす暗くなる頃までかかった。一人で三合~三合五勺の米をかんでいた。
午後三時から3合の米を噛み始めて、終わったのは薄暗くなる頃。いくら丁寧に噛んだとしても炊いたご飯では恐らくそこまで時間はかからない。また、
ばあは十六才から二十才まで行事の度毎に噛んだというが、噛んだ翌日はあごが痛くて口もきけず、食事もできなかったという。手間賃もなく、ただ黙々と噛み続けたのだという。
とも書かれていることから、恐らく口噛みの作業は生米を使って行われたんじゃないかと推測できるのだ。

実はちょっと心配になって文献資料にあたってみたのだが、沖縄のミキ作りについてまとめられた「沖縄の神酒」という論文にも沖縄のミキ作りには
飯を噛んで発酵させるか、水に漬けて柔らかくした生米を噛みそれを発酵させるか、米粉を煮てそれに柔らかくした生米を噛み入れて発酵させた

「沖縄の神酒」平敷令治 1973 沖縄国際大学文学部紀要 社会篇 1
と書かれているので生米を使うケースも間違いではないようだ。余談だが、沖縄で餅というともち米を突いてものではなく、生のもち米を粉にしたもの(モチ粉)を使って蒸したものが主流であり、米を炊いたものは使われない。なぜ炊いたご飯が使われないのか、気候的な問題なのかもしれないし、他になにか理由があるのかもしれない。

まぁそのあたりの謎はおいておいて、とりあえず米を噛んでいく作業に移りたいと思う。
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生米を口に入れて
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かみ砕いて
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吐き出す。

これをひたすら繰り返していく。米を噛んでいて気づいたのだが、生米を長く噛みすぎると細かくなりはするのだが、唾液とともに喉の奥に消えていって最終的に口の中には何も残らなくなる。

口噛みのポイントとしては、ある程度の大きさまで米を噛んで口の中に溢れた唾液と一緒に吐き出す感じがよさそうだ。
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先の体験談で「噛んだ翌日はあごが痛くて口もきけず」というのがあるが、生米を噛むには結構な力が必要で確かにアゴが痛くなる。結構な重労働だ。
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最終的に四苦八苦しながら生米を噛み終わった。この記事自分のサイトでも公開をしていて、本来ならば上の写真は噛み終わった米の画像なのだが、「生理的に無理」との意見が多かったので2月くらいに見たコスモス畑の画像を貼っておく。頭の中で健康診断の時に飲むバリウムみたいな絵を想像しておいて頂きたい。

続いて、先ほど水に漬けておいた米を
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細かく砕いていく。
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記事内では細かく砕く方法については触れられていなかったが、多分石臼みたいなもので細かくしたんじゃないかと思う。手持ちの石臼がなかったのでミキサーで代用した。スイッチを入れたらすぐに粉々になったので、文明の力は偉大だと思う。
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砕いた米に水を加えて(記事では分量が不明だったので目分量)、火にかけていく。
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火が通ると全体的にとろみがついて、もっちりした状態に。
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火を止めて、ここに先ほどの口噛みの米を加えてよく混ぜる。以上で作業はおしまいである。
一斗入りの木樽に入れ水を加えて晩六時頃から翌日午後五時ごろまでの約二十三時間位い置く
とあるので、翌日までこのままで置いておくことにした。

ミキはできたのか

さて、こちらが翌日のミキの姿。
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ものすごい悪臭が立ちこめる、とかそんなことはなかったので一安心だが、見た目に変化が見られない。できてなかったらどうしよう。
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実際に味見をして確かめてみることにした。
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まずは匂いから。

…!ほのかに爽やかな香りが漂ってきた。どこかで嗅いだことのある匂いなのだが、なんだろうか…と考えてみて一番近いのはヨーグルトの香り。
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さて、味の方は…
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カルピス…!

砂糖は使っていないのに、ほのかな甘みと酸味。おっさんが米を噛むという過程はさておき、どうしたことかかなりおいしいミキができてしまった。悲しいのはこの喜びを共有したくても誰も飲んでくれなかったところ。結局自分で全部飲むハメになった。

ばあ、僕にもミキができたよ

写真は汚い
写真は汚い
というわけでレシピ通りに口噛みミキを作ってみる、という企画だったのだが詳細な分量が記事には記載されていないため大雑把に作ったが、普通に美味しいミキができあがってしまった。唯一頂けない点としてはおっさんが噛んで作ったミキは本人にしか需要がないという点だろうか。まぁ美女だから需要があるとかそういう問題ではないと思う。たぶん。

ぜひ読者諸賢にもミキ作りをお勧めしたいのだが、口で噛まないミキの作り方はクックパッドやネットで情報が沢山あるのでそちらを参照頂きたいと思う。
余談だけどミキは沖縄本島だけでなく、奄美諸島でも作られている。上の写真は奄美大島で作られている「花田のミキ」。牛乳パックに入っている。
余談だけどミキは沖縄本島だけでなく、奄美諸島でも作られている。上の写真は奄美大島で作られている「花田のミキ」。牛乳パックに入っている。
こちらは宮古島の近くにある伊良部島で販売されたミキ。なぜかピンク色のやつが多い。
こちらは宮古島の近くにある伊良部島で販売されたミキ。なぜかピンク色のやつが多い。
このようにミキは市販されているものも、色々なバリエーションがある。作るのはハードルが高いという人は各地のミキを飲み比べてみるのも面白いかもしれない。
  

 
@nifty

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