無音3秒続かない、異色アニメ『波よ聞いてくれ』 声優がラジオを舞台に喋り倒す

2020/05/23 09:00 

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アニメ『波よ聞いてくれ』キービジュアル (C)沙村広明・講談社/藻岩山ラジオ編成局

 4月より放送中のテレビアニメ『波よ聞いてくれ』が、アニメファンの間で「声優さんの話術がすごい」「声優さんの声を堪能できる作品」と話題になっている。ラジオ局を舞台にした作品で、第1話は主人公・ミナレ役の声優・杉山里穂が冒頭7分、ヒグマを相手にほぼ1人で怒涛のトークを展開し、本編約24分のうち6~7割を1人で喋り倒した。脇を固めるキャストも吹替えの世界で活躍している声優が奮闘し、作品の世界観をリアルに表現している。こうした異色のキャスティングに踏み切った狙いなどを、アニメーション制作・サンライズの大塚大プロデューサー(以下、大塚P)に聞いてみた。

【動画】とにかく喋り倒す主人公…第1話の一部が見られるPV

■冒頭7分1人で喋り倒す…膨大なセリフ量に視聴者&共演者も驚き 主演の役作り

 アニメは、『アフタヌーン』(講談社)で連載中の同名漫画が原作で、漫画『無限の住人』の沙村広明氏による最新作。札幌市のスープカレー屋で働く主人公の鼓田ミナレが、ひょんなことから“業界人”の中年男性にダマされ、ワケも分からずラジオDJデビューするというストーリーだ。

 ミナレ役の杉山は2015年にデビューし、アニメ『実験品家族 -クリーチャーズ・ファミリー・デイズ-』タニス役(18年)で初主演。その後も『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『ブギーポップは笑わない』など人気作に出演してきた。

 そんな彼女は吹替え作品での仕事も多く、すでに30作品近く出演している。アニメ第1話では冒頭から約7分間、他のキャラクターとほぼ会話することなく喋り倒したことや、「殺す!」というセリフで放送が終了するなどインパクトを残すと「杉山さん、しゃべりすぎ」「ほかのキャラクター出てた?」「杉山さんを起用した人すごい」などと話題になった。主演のセリフ量が多いのは当たり前だが、ここまで膨大な喋りは滅多にお目にかかれるものではない。

 彼女を起用した理由について大塚Pは「1つ目にあのセリフ量を噛まずに喋り切れるということ。2つ目に一般的なヒロインではないミナレのキャラクターを掴めているか、掴もうとする気持ちが強いかということ。この2つが条件になると考えていました」と明かす。

 「オーディションを行う上で、杉山さんは指名でお声がけをさせていただいたわけではなく、所属事務所さんからの推薦でした。自分は、杉山さんのお名前を存じ上げてはいませんでしたが、この2つの条件をクリアされていました」と技術的な部分はまったく問題なく「スタジオオーディションでお会いした時も、原作本にたくさん付箋(ふせん)が貼ってあり、すごく努力されていたんだなということが、強く印象に残っています。さらにミナレと同じ北海道出身で、当時は同い年という等身大のミナレを演じることができるという点も、大きなポイントでした」と共通点もありつつ、努力で勝ち取ったことがわかった。

 「あのセリフ量を噛まずに喋り切れるか」がオーディションのポイントだったが、実際は何をしたのか。本人の杉山に聞くと「長いセリフが多いオーディション原稿だったので、セリフが流れないように一つ一つ丁寧に読み込み、本番はその内容を薄めずにミナレの勢いを落とすことなく表現できるように頑張りました」と告白。

 また、今の役作りで気を付けていることは「漫画の時点でミナレのキャラクター描写に実在しそうなリアリティがあったので、記号的な感情表現だとキャラに合わないと思いました。なので、作為的な演技を出来るだけ避けるため、無意識でもセリフが出てくるくらい台本とキャラを読み込んでいき、本番は自然に出てくるミナレの感情に身を任せました」と話す。

 ミナレの一人喋りが多いという作品の特徴は、共演者も見どころとして捉えており「彼女のラジオ部分が本当にすごい! 演じている杉山里穂さんのセリフ量もテンポも圧巻なので、ぜひ注目していただきたいところです」(麻藤兼嗣役の藤真秀)、「とてもセリフ量が多いので、会話のテンポや、作品ならではのラジオパートも楽しんで頂きたいです! 現場では皆さん(特にミナレさん)が戦の様に、熱量を持って収録しておりますので、ぜひたくさんの方に観ていただきたいです!笑」(南波瑞穂役の石見舞菜香)と舌を巻く。

 「この作品の見所は、やはり主人公の喋りだと思います。声優としてラジオ番組をやることもありますが、あれほど喋れたらどれ程の人を楽しませられるのだろうと考えてしまうほどです」(甲本龍丞役の石川界人)、「特にミナレさんの長ゼリフのシーンは本当に凄いので、ぜひとも注目していただきたいです」(中原忠也役の矢野正明)と、膨大なセリフ量をこなす杉山の演技と技術を絶賛している。

 本人も「スタッフさんから『Aパートだけでこんなワード数、初めて見ました…』と言われるほど喋ってます」と笑いながら明かしており、苦労を聞くと「セリフ量は一話だけで通常の作品1クール分くらい喋っているのではないかというくらいで、台本をいただくたびに驚いていました。しかし極端に収録時間が長引くようなことはあまりなく、楽しく収録出来ていたと思います」と打ち明けた。

 その役作りについて大塚Pは「オーディションでお会いした時から、掴まれていたと思います。というか、ミナレ自身だったかと」と笑いながら「特に、タイトルコールの『波よ聞いてくれっへぇ~』が違和感なく驚きました。それでもアフレコの前には、必ず芝居の方向性などを監督に確認に来るほど、熱心にミナレを勉強されていたのが印象的でした」と振り返った。

■吹替え声優の起用は「実写寄りの作品と考えて」音楽控えた演出で魅力増す声

同作では、『007』シリーズでジェームズ・ボンド役(ダニエル・クレイグ)の藤真秀、アル・パチーノ、ヒュー・ジャックマンなどの山路和弘、イライジャ・ウッド、レオナルド・ディカプリオの浪川大輔など、吹替えで実績がある人物が顔をそろえる。 キャスティングの意図について大塚Pは「『波よ聞いてくれ』という作品が、アニメよりも実写寄りの作品と考えていましたので、劇伴の使い方、効果音のつけ方、キャスティング諸々が実写寄りの演出が合うだろうと考えていました」と説明。

 「そこから監督がお仕事をご一緒させていただいて、さらに吹替えを多くやられている音響監督の高橋剛さんにお声がけをさせていただきました。キャスティングについては、高橋さんを中心に行いましたので、自然と実写吹替え中心のキャストさんになりました」と経緯を明かした。『ランボー/最後の戦場』(2013年)『バイオハザード』(04年)などで演出を担当した高橋音響監督が、今まで一緒に仕事をした中で信頼できる人を起用したのだという。

 作品の舞台はラジオ局。何十年も前から声優はラジオ局で冠番組を持ち、ファンを楽しませてきた歴史がある。“声”がメインのラジオと声優の組み合わせは相性抜群に思えるが、「ラジオ」を題材にしたアニメ作品は意外にも少なかったと感じる。お笑い芸人やアナウンサーではない、“喋り手”としての声優のポテンシャルを引き出すために、こだわった演出はあるのか。

 大塚Pは「セリフ量が多いということもありますが、劇伴を使用する頻度を抑え目にして、キャストさんの芝居をきかせる演出を重視していたと思います」と声優の“声”を目立つようにしたとし「また、アフレコに際してのフィルムの状態を、できるだけ良い状態にするよう心がけていました」と少しでも作品を理解、役を掴んでもらい“リアルな声”で収録ができる環境を作ったという。

 第1話では、麻藤がミナレに言うセリフで「ラジオには『3秒ルール』ってのがある。無音が3秒続くと放送事故、8秒も続けば俺のクビが飛ぶ。止めるからにゃアンタが間を持たせるんだぜ?」がある。とにかくミナレが喋り倒す作品なため、アニメにおいても“無音が3秒”続かないように演出しているのかと聞くと「アニメでも意図した演出ではない限り、無音の状態は作らないようにしています。セリフや劇伴が入らないシーンでも、人の話し声や車の往来の音、虫の声などの「環境音」を入れていますので、注意深く聞いていただければと思います」と話してくれた。

 ラジオ局で働く人たちの人間ドラマを描いたストーリーは、生身の人間を演じる機会が多い吹替え声優たちによって魅力が増したと言える。非日常ではなく現実的な題材を扱うアニメおいて、吹替え声優の起用が思わぬ面白さを生み出すと感じた。

■放送情報
MBS・TBS:毎週金曜 深夜2時25分~
BS-TBS:毎週金曜 深夜3時00分~
HBC:毎週日曜 深夜1時25分~
AT-X:毎週火曜 午後11時~
BSS:毎週金曜 午後1時55分~
SBS:毎週火曜 午後1時55分~

公式Twitter:@namiyo_official
公式サイト:namiyo-anime.com


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