“地味”だからこそ強い? 暗い状況すらも笑いに変える『地味ハロウィン』の強度

2020/10/27 08:40 

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『宝塚音楽学校の合格発表を見る見に来た母と娘』の仮装 (C)oricon ME inc.

 コロナ禍で、東京・渋谷区長が「今年のハロウィンは渋谷に来ないでください」と声明を発表。また池袋のハロウィンコスプレパレードも中止が発表された。だが、Webサイトの「デイリーポータルZ」が主催する『地味ハロウィン』は開催を決行。王道の「派手ハロウィン(派手ハロ)」が中止を余儀なくされるなか、なぜ『地味ハロウィン』はイベントに至ったのか。“地味”ゆえの“強さ”とは? 「デイリーポータルZ」の編集長・林雄司氏に話を聞いた。

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■『地味ハロ』がリアルの開催にこだわった理由は、互いを褒め合う「なまぬるさ」

 『地味ハロウィン』(以下/地味ハロ)とは、魔女やゾンビ、アニメのキャラなどに仮装する王道の「派手ハロ」とは対局に位置するハロウィンイベントだ。“地味”の通り、「ホテルの部屋を出たらオートロックで締め出された人」や「熱が出たのでお母さんにジャンプを頼んだらマガジンが来てしまった中学生」、「インク漏れ(胸ポケットに挿したボールペンがインク漏れして白いワイシャツに小さいシミができた)」など、どこかで見たことがある(ような気がする)人たちになりきる仮装イベントだ。

 例年、渋谷で開催していたが今年の開催地は二子玉川の「iTSCOM STUDIO & HALL 二子玉川ライズ」。この“リアル参加”に加え、リモートで参加者と会場スクリーンをつなぐ“リモート参加”。ほか、ハッシュタグ #地味ハロウィン #DPZ のふたつをつけて写真を投稿する“Twitter参加”で行われる。

 各地のハロウィンイベントが中止になるなか、“リアル参加”にこだわった理由は何か。林氏は「インターネットでの開催とは違う“生ぬるい世界観”が会場にはあるから」と話す。「ネット開催一本化も考えましたが、会場が一番面白い。会場では皆、参加者なんです。評論家はいません。『地味ハロ』は、とんちの利いた――アイデア一つで勝負できる──仮装が多いのですが、ネットのみで開催すると“面白い”“面白くない”という批評の対象になりやすい。参加者がああだこうだと言われるだけのイベントにはしたくないんです」(林氏/以下同)

 昨今はSNSの炎上、誹謗中傷など、インターネットのネガティブ面も問題視されている。顔と顔を突き合わせないコミュニケーションであるため、辛辣なコメントを言いやすい。だが“リアル参加”ではお互いの“顔”が見える上、参加者全員が“批評対象”。悪口を言う人は皆無なのだ。「お互いがお互いを『それ良いですね』『地味ですね』と、褒め合う“なまぬるさ”こそ『地味ハロ』の楽しみ。多少つまらない仮装でも、皆に褒められて良い気分で帰る。リアルの場が持っているこの良さを、規模を小さくしてでも続けていきたいと思いました」

■コロナ禍が追い風に?リモート参加により海外の“地味な人”にも脚光が


 もちろん感染対策には細心の注意を払っている。開催地を渋谷ではなく二子玉川にしたのもその一つ。「二子玉川のホールは入り口あたりの壁を一面開けられて換気が良い。都内にそういうホールは珍しいらしく、そちらにしたのですが、そしたら決めた後に渋谷区長が“渋谷でハロウィンをするな”って。だから偶然にしても良かったなと思いました」

 また人数も会場のキャパシティの半分で行い、椅子も一つおきでソーシャルディスタンスを。壇上以外ではマスクは必須。検温、アルコール消毒など徹底して行う。「会場がスカスカで、さみしい開催になってしまいますが、どうせ“地味”なイベントだから、その“地味さ”を売りにすればいいかなと思い始めまして(笑)。東京の最果てでやるのも、盛り上がった感じがないのも『地味ハロ』だから許される。今年は『地味ハロ』の名に恥じない“地味”なハロウィンをやります!」

 リモート開催は初で、林氏はここにも可能性を見出している。「海外に住んでいる日本人からも参加表明が来ているんです。リモートで行うことにより、これまで時間的にも距離的にも会場に来られなかった人たちが参加できるようになった。Twitterはこれまで会場に来てくださっていた参加者が自らアップしたりしていましたが、それだと写真の背景はどうしても“会場内”になっていた」

「ですが今回のTwitter参加では、撮影場所も自由。例えばスターバックスの店員の仮装をしてドトールの前に立つことも可能で──もちろん店内にまで入るのは迷惑になりますが──、場所を含めてネタを作り込むことができる。“会場に来なきゃ”というタガが外れたことでより自由度が増し、完成度の高い仮装も増えるかもしれません」

 コロナ禍ならではの仮装にも期待を寄せる。「過去にアイスクリームの箱のなかに入った仮装などもありまして、そうして箱などを利用した“セルフソーシャルディスタンス”で、「これならマスクもいらないじゃん」という仮装も出てくるかもしれない。あとは米大統領のトランプ支持者の仮装とか。彼らはなぜかそもそもマスクをしてませんからね(笑)。コロナ禍で暗い話題の多いなか、その暗い状況すら笑いに変えられるものがあったらうれしく思います」


■『地味ハロ』仮装は、時代の写し鏡 年を追うごとにシンプルな笑いに変化


 そんな『地味ハロ』で、林氏が印象に残っている仮装はなんだろうか。「去年のもので個人的に好きだったのは、「宝塚音楽学校の合格発表を見に来た生徒と、生徒の親」。あれは良く出来ていましたね。そんな人、普通は皆さん見たことないじゃないですか(笑)。でも、見たことないのに“なんか、わかる!”という感じなんですよ。すごく不思議な感覚でした」

 「あとは、アルバイトのオープニングスタッフ募集の仮装ですかね。アルバイト雑誌などで良く見る「オープニングスタッフ」のレイアウト、写真に重ねて載っけてある文字なんですけど、その誌面を横断幕を使って再現したものがありまして。あれはメディアのメタというか、いいアイデアだなと感じました。昨年はそういうシンプルなものが多かったです。単純に「虫歯の人」とか」

 2014年に身内でスタートし、2015年に一般化。その頃から「なんとかで、こうだった人」という物語性を帯びた仮装が増えてきた。だが2018年頃から、「顔変換アプリで失敗した人(スターバックスのカップを手にした仮装で、スタバのカップに描かれる人魚の顔にその人の顔が。その人の顔にはスタバの人魚の顔が)」など、インターネットで見かける人&流行アプリネタが増加。ネットの隆盛の歴史なども鑑みるに『地味ハロ』は、時代の写し鏡であるかのようにも思える。

 そして2020年。そのものズバリの平面的な仮装→物語性→インターネット→シンプルと移り変わってきて、コロナ禍の今年はどんな仮装が飛び出すのか。「仮装でなにかに変身して、その“誰か”になりきるだけでとても楽しいんです。アイデア一つで、兄弟の服を借りるとか、そんな衣装だけでも面白い仮装が作れますので、“見る”だけよりも是非、気軽に参加してほしい」と林氏。

 誰か特定の人物・キャラの仮装をすると、それを揶揄しているとも取られかねないので笑いにくくなる。だが『地味ハロ』の仮装は、「そんな人、見たことないはずなのになぜか、わかる」「確かにいるかもしれない」という不特定人物への笑いだ。確かに尖った笑いも面白い。だが誰も傷つけない、『地味ハロ』らしい“なまぬるい”笑いも、暗いコロナ禍においてはよい癒やしになるかもしれない。

(衣輪晋一/メディア評論家)
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