北朝鮮調査の人権団体「消滅の危機」 トランプ政権の対外援助凍結で

2025/07/19 20:31 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 米国のトランプ政権が打ち出した、米国際開発局(USAID)など対外援助機関の「解体」方針が、北朝鮮の内情を調査する韓国などの人権団体の活動にも深刻な影響を及ぼしている。米国からの助成金の一部が途絶え、資金不足に陥っているためだ。専門家は、こうした団体が「消滅の危機にある」と警鐘を鳴らしている。

 北朝鮮では内外のメディアが自由な取材、報道をできず、経済状況を含めた内情を知ることは極めて難しい。韓国などの人権団体は、脱北者に対する聞き取り調査や北朝鮮内部から入手した独自情報の公開などを通じて、北朝鮮の人権状況などの実態を国際社会に伝える役割を果たしてきた。

 だが、こうした団体の運営が危機に直面している。北朝鮮での拷問や収容所での実態など5万6000人以上の事例のデータベース化を進めてきたNGO団体「北韓(北朝鮮)人権情報センター」(NKDB)の宋韓娜(ソンハンナ)センター長は「私たちを含む多くの団体がこの半年、財政的に困難な状況にある」と語る。その原因は、トランプ政権の方針だ。

 米国は冷戦期から、経済開発や人道支援だけではなく、国務省の民主主義・人権・労働局(DRL)やUSAID、米政府の財政支援で運営されている非営利組織の「全米民主主義基金(NED)」を通じて、世界各地で民主主義の発展や人権状況の改善に関連する活動を支援している。世宗研究所(韓国)によると、北朝鮮の人権問題に取り組む韓国などの団体も、米国から年間で合わせて約1000万ドル(約14億8000万円)の助成を受けている。

 だが「米国第一主義」を掲げるトランプ政権はこうした政策を全面的に否定。1月にDRLの資金を凍結すると表明し、2月にはNEDに割り当てられた予算も差し止め、7月にはUSAID本部を閉鎖した。

 その結果、NKDBにも本来届くはずの助成金が届かなくなったという。米政府内も混乱しており、助成金の支給が再開される可能性も残されてはいるものの、NKDBは家賃を抑えるため、展示室を含む事務所を5月に移転した。宋氏は「職員の給与カットも余儀なくされた」と話す。

 人権団体「移行期正義ワーキンググループ」(TJWG)も事務所移転を検討したが、引っ越しにも費用がかかるため二の足を踏んでいる。TJWGは昨年、脱北者への聞き取りに基づき、北朝鮮住民の失踪事案などについての調査報告書を発刊した。李永煥(イヨンファン)代表は「次のプロジェクトのための助成金が残っているので当面は何とかしのげそうだが、米国からの助成金が途切れれば、いずれ運営資金は枯渇する」と危機感を募らせる。

 世宗研究所の北朝鮮専門家、ピーター・ウォード研究員は「北朝鮮の人権問題に取り組む韓国の市民団体は今や、消滅の危機に瀕(ひん)している。こうした団体の活動が弱体化すれば、北朝鮮の内情を知ることがこれまで以上に困難になる。韓国政府の助成は米国からのものと比べてわずかで、李在明(イジェミョン)政権は助成金を拡充すべきだ」と指摘した。【ソウル福岡静哉】

毎日新聞

国際

国際一覧>

写真ニュース