辞任のウクライナ大統領府長官、どんな人物? 和平交渉に打撃か

2025/11/29 15:24 

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 ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、エネルギー部門の汚職疑惑で家宅捜索を受けたイエルマーク大統領府長官を解任する大統領令に署名した。イエルマーク氏はゼレンスキー氏の側近で、ロシアとの和平交渉を巡る米国との協議では代表を務める。交渉への影響は避けられそうにない。

 ゼレンスキー氏は演説でイエルマーク氏が辞表を提出したとし、「大統領府は一新される」と表明した。イエルマーク氏について「(ロシアとの和平に関する)交渉でウクライナの立場を代表してくれたことに感謝する」と述べ、後任人事は「明日、協議する」とした。

 ウクライナメディアによると、元弁護士兼映画プロデューサーのイエルマーク氏はゼレンスキー氏のコメディアン時代からの友人だった。2019年にゼレンスキー氏が大統領に就任すると大統領補佐官となり、20年に大統領府長官に昇進。ゼレンスキー氏の信頼を得て「ナンバー2」の地位をつかんだ。人事を掌握してゼレンスキー氏と意見の合わない人物を政権の中枢から排除し、権力を大統領府に集中させた。

 だが今年11月、国家汚職対策局が、国営原子力企業「エネルゴアトム」やエネルギー省関係者が絡む汚職事件の捜査を開始すると、イエルマーク氏が同局への政権の介入を強めようとしたとの情報が広まった。不正に得た資金で建てられた高級住宅の一つがイエルマーク氏のためのものだったと報じられるなど、汚職への関与も取り沙汰され、与野党から辞任を求める声が高まった。

 汚職対策局はイエルマーク氏がどう関与したかを明らかにしていない。イエルマーク氏は28日朝に家や事務所の捜索を受け、捜査に「全面的に協力する」と表明していたが、同日夕、辞任を表明した。

 ◇米国との交渉に影響か

 辞任により、影響が懸念されるのが米国との交渉だ。

 現在ウクライナは、ロシアとの交渉に向けた和平案を米国と策定中だ。米国が当初提示した案は、ウクライナ東部2州全域の割譲を含むなど、ロシア寄りの内容となっていた。

 イエルマーク氏はウクライナ側の交渉団の代表を務め、23日にスイスであった協議で28項目あった和平案を19項目まで絞り、ゼレンスキー氏が「正しい要素が考慮されている」と評価する状態にまで持ち込んだ。

 27日には米誌アトランティックに対し「ゼレンスキー氏が大統領でいる限り、我々に領土を諦めさせることはできない」と述べており、今後もウクライナの譲歩を最小限にするため、粘り強く交渉する心づもりだったとみられる。

 ウクライナメディアによると、バイデン前政権と緊密に連絡を取り合っていたイエルマーク氏は、トランプ政権からは敬遠されていた。だが交渉の中心となってきたイエルマーク氏が不在になれば、ウクライナにとっては痛手だ。

 米ニュースサイト「アクシオス」によると、イエルマーク氏は29日にも訪米し、ロシアとウクライナの和平交渉を担当するウィットコフ中東担当特使らと協議する予定だったという。米ブルームバーグ通信によると、代わりにウメロフ国家安全保障国防会議書記らが28日、米国へ向かった。

 一方、ウクライナ国内では、イエルマーク氏の解任を、いびつな権力構造を解消する契機とするよう期待する声も上がる。ある野党議員はウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」に対し、ゼレンスキー氏が議会や内閣と協力して新たなチームを迅速に作れば「国家にとってよい影響をもたらす」との見方を示した。【ベルリン五十嵐朋子】

毎日新聞

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