「夫の姓」9割の現実 旧姓を使い続ける女性市長の選択とモヤモヤ

2025/12/07 11:15 

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 旧姓の通称使用を拡大し、社会生活での不便を解消するための法律が議論されている。自維連立政権の合意書では、旧姓の通称使用の法制化案を2026年の通常国会に提出して成立を目指すとしている。結婚後に改姓するのは9割超が女性という中、公権力の行使をする埼玉県内の女性市長はどのようにしているのか、取材してみた。

 行田市の行田邦子市長は結婚後、旧姓を使い続けている。大手広告代理店社員だったときも、07年に参院選に初出馬した際も同様だ。行田氏は「周りは皆結婚しても旧姓使用をしており私も当然旧姓とした。姓を変えると友人らに自分だと認識されない。その流れで選挙も旧姓。行田邦子以外ありえなかった」と振り返る。

 ◇市の文書、旧姓でも法的効力は同等

 5氏出馬の激戦を制し行田市長に就任した23年5月。「旧姓使用では迷惑をかけるかな」と心配もあった。

 しかし、それは杞憂(きゆう)に終わった。市は顧問弁護士に問い合わせ、行政処分に係る文書、税証明書など各種証明書、契約書など市として発出する書類全般に旧姓の通称表記でも「法的効力に問題ない」との回答を得ていた。以後、一部の団体の役員就任時に本名での登記を求められたケース以外は全て旧姓で業務を続け、「まったく影響がなく、市民も混乱しなくて良い」という。

 ◇戸籍名の名札にモヤモヤ

 ただ最近、唯一、戸籍名での名札を渡されて付けたことがあるという。5月に「秩父ミューズパーク」で行われた第75回全国植樹祭で「特別招待者」として出席した際、「行田市長・行田邦子」として受付をすると、戸籍名の「山崎邦子」の名札を渡された。

 行田氏は、「会場でお会いした多数の方々から『どうしたの?』『離婚したの?』と聞かれ、それはモヤモヤした」と振り返る。天皇陛下も出席される催しで、セキュリティー上の対応だったと推測する一方、「今後旧姓の使用拡大を進めるなら、ガイドラインを作るなど安心して旧姓が使えるよう、やるべきことはもっとあるのでは」と指摘する。

 ◇対応はさまざま

 行田氏と違い、旧姓と戸籍上の名を使い分けている女性首長などもおり、自治体で対応はさまざまだ。

 22年に就任した草加市の山川百合子市長は、政治活動や市の広報などは旧姓の山川姓を使用し、証明書など法的効果を伴う文書には戸籍上の名を使用するというように使い分けている。

 また、21年に和光市長に就任した柴崎光子氏は「国の行政機関などにおける旧姓使用の状況を踏まえ」、旧姓の柴崎光子を使用するとしていた。しかし、5月に市ホームページに掲載された「市長の氏名表記」によると、旧姓の「柴崎光子」から戸籍上の「柴崎光子」を使用する旨が記載されていた。いずれも姓名は同じだ。

 市にこの記載の詳細を尋ねたが、「市長のプライベートなことなので言えない」と説明する。和光市に住む30代男性は「個人的な理由があるのでは。これだとよく分からないし、わざわざホームページに載せないといけないのか……」と話す。

 ◇埼玉大・金井教授「皆が考えること重要」

 県内の女性首長の旧姓使用の対応には差が生じていた。ジェンダー格差問題に詳しい埼玉大の金井郁教授(労働経済論)は、「現政権が通称使用を拡大するというなら、どんな場面でも旧姓のみで手続きできるようにする必要がある」とし、政府の法制化の議論を注視する。

 一方、「そもそもなぜ夫婦が『自由』に選んだ(戸籍上の)姓の9割以上が夫の姓になるのか。男性の姓を継承したいといった家父長制の影響など、そこにどのような意味があり、どのような力が働いているのかを私たち皆が考えることが重要だ」と話している。【鷲頭彰子】

毎日新聞

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