羊毛で紡ぐ夢「10年で10作品」島根・大田に移住の笠木真衣さん

2021/05/05 09:53 

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 神奈川県出身で2018年に島根県大田市に移り住んだ羊毛作家、笠木真衣さん(37)が、同市山口町の自宅で羊を飼いながら自作の制作に取り組んでいる。笠木さんの第1作「綾織服地」は20年秋、生地の質やデザインを競う全国大会で最高賞を受賞した。いきなりの快挙に「信じられない」と驚きを隠さないが、「目標は10年間で10作品」とじっくり先を見据える。2作目の靴下も完成したばかり。羊毛で何を紡ごうとしているのだろうか。【萱原健一】

 ◇21年ぶりの快挙

 笠木さんが服地(幅153センチ、長さ400センチ)を出品したのは「ジャパン・テキスタイル・コンテスト」。手洗いで羊毛の良さを引き出した点などが評価され、応募数304点の中からグランプリ(経済産業大臣賞)に輝いた。入賞者は企業が多い中、個人での受賞は21年ぶりという。

 国内市場の9割以上を輸入品が占める羊毛だが、あえて国産にこだわり、島根県産羊毛のみで生地を制作した。注力したのは手洗い。刈り取った原毛に付着するゴミや油を取り除く際、高熱や薬品にさらされる機械洗いを避けた。羊毛の弾力性や保温性を生かすためだ。

 1年半かけて集めた羊毛は約40頭分。3カ月かけ、すべて手で触って毛の質を確かめた。糸を紡ぎ、布を織る工程は愛知県の紡績会社に発注。デザインや布の密度、織り方などを細かく指定し、20年8月に完成。羊毛生地に枯れ草が織り込まれ、「ざらざらしているけれど素朴で気持ちいい布」に仕上がった。

 ◇きっかけは文学

 羊毛と出合うきっかけは文学だった。笠木さんは、NHK衛星第2(当時)の書評番組「BS週刊ブックレビュー」で1年間、読書家として知られた俳優の児玉清さん(故人)のアシスタントを務めたほどの本好き。大学時代に児童文学を学び、プロの小説家を目指した。天女の物語を書くため取材で織物体験をしたのが一つの転機。10年に長野県の農家民宿に半年通って織物を習った。

 11年3月に結婚し、夫の真人さん(41)の働く群馬へ移り、糸紡ぎのワークショップに参加した。「手の中で繊維が絡み合って糸になる様に魅せられた」。次第に「羊を飼い、身に着けるものを作りたい」。糸車や織り機を買い、独学で羊毛を洗い、紡ぎ、織り、仕上げるまでになった。

 羊を飼う夢がかなったのは大田に移り住んでから。真人さんの実家が松江市で、帰省のたびに島根が好きになり、山並みの風景にひかれて大田を選んだ。20年4月に最初の1頭をもらいうけ、今では12頭を飼育。夢は「毎年1作品、10年で10作品」という具体的な目標に変わった。

 一つの羊毛作品に戯曲と小説を一つずつ書くという目標も定め、第1作の服地には「緒(いとぐち)」という戯曲を書いた。羊毛と言葉の両方を紡いでいきたい。

 ◇靴下、今秋販売へ

 2作目は靴下で400足を制作中。「羊毛の良さを身近に感じてもらえるものを作りたかった」。1足3630円で、同市仁摩町で今秋開業予定の道の駅「ごいせ仁摩」などで販売したい考えだ。自宅の工房で1年前に刈り取った羊の毛も使用したが、大半は最高級の海外産メリノ種。ウールソックスは細くて丈夫な糸を使うのが基本だが、羊毛が本来持つ肌触りの良さなどを生かすため、靴下には向かない、太く柔らかい「紡毛糸(ぼうもうし)」をあえて使用。長い毛と短い毛の比率などを研究して強度を出し、保温性や弾力に優れた靴下にできた。戯曲も「悖(もと)る」と題して動物との共存をテーマに書くつもりだ。

 来年作る3作目は実用品ではなく、自由な発想のアート作品になるかもしれないという。「羊と共に生き、羊毛の可能性を追求していきたい」と笑顔で話した。問い合わせ先はメール(kasagifiberstudio@gmail.com)。

毎日新聞

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