「べらぼう」の時代に生まれた「へんば餅」 次の50年へ原点回帰

2025/03/13 10:45 

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 江戸時代から地元だけでなく伊勢神宮への参宮客にも愛された「へんば餅」。製造、販売する「へんばや商店」(本社・三重県伊勢市小俣町明野、奥野耕二郎社長)が創業250年を迎えた。昔ながらの味を守り続けるため、自分たちの「原点」に戻ろうと、新たな取り組みに挑んでいる。

 へんばや商店は1775(安永4)年に伊勢参宮の往来が盛んな伊勢街道の宿場町・小俣(現伊勢市小俣町)で創業した。田沼意次が老中に就任したのが1772(安永元)で、NHK大河ドラマ「べらぼう」が描く時代と重なる。

 当時、宮川の東岸は伊勢神宮の神域とされ、動物の立ち入りが禁止されていたため、旅人は西岸にある小俣の地で乗ってきた馬を返し、「宮川の渡し」の船に乗って伊勢の地へ入った。馬を返す「返馬所」の近くの茶店で出されていた、こしあんを包んだ米粉の餅が「へんば餅」と呼ばれるようになったとされる。

 10代目の奥野社長は250年を迎えられたことに感謝しつつ、「次の300年に向けて、店を続けていく使命がある。効率化はすぐにでもできる。でも、手間ひまや思いなど大切なものを失ってしまっては、代々築き上げてきたことが台無しになる。だから(事業を)広げるのではなく原点、原風景に立ち返りたい」と50年先、さらにその先を見据え、熱っぽく語る。

 「自分たちで畑を耕し、自分たちが作る商品の材料を、自分たちで育てる。これが原点ではないか」と考え、24年に「へんばや農園」を設立した。「自社で使用する米や地元の伝統食『伊勢たくあん』の材料となる御薗大根などを栽培していきたい」と思いを広げる。

 心強い協力もある。「へんばや農園」に入社した西恭平さんは農業を学べる学科がある県立明野高校の教員だった。地域との連携授業を通して奥野社長と知り合い、思いに共鳴して転職を決断し、今は春からの作付けを目指して畑を耕し、土作りに励んでいる。

 近年は近隣でも開発が進み、住宅地やドラッグストアなどができ、生活が便利になる一方で、自然が失われていく様子を目の当たりにする。「もう一度原風景を取り戻したい。持続可能な地域の仕組みを作って、自然環境を守っていきたい」と奥野社長は長い歴史を持つ味を守るため、思いを新たにしていた。

 ◇「わたしのへんば餅」エピソード募集

 「へんばや商店」は記念企画として「わたしのへんば餅」をテーマに思い出エピソードを募集している。日本語で書かれた400~800字の未発表のもの。優秀作品には鳥羽国際ホテルのペア宿泊券やへんば餅特大クッション、へんば餅製造体験などが贈られる。締め切りは4月30日消印有効。郵送、店舗、インターネットで受け付けている。

 また、直営4店舗の建物がデザインされた箱の記念商品(へんば餅7個入り、1000円)も販売している。今後も夏、秋に向けて記念企画を続け、250周年を盛り上げる。問い合わせはへんば餅宮川店(0596・37・0951)へ。【小澤由紀】

毎日新聞

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