山上被告「銃撃断念は教団への敗北」 借金抱え思いとどまることなく

2025/12/02 21:34 

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 安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告(45)は2日、奈良地裁(田中伸一裁判長)で開かれた裁判員裁判の被告人質問で、2022年7月8日に安倍氏を銃撃した理由について「安倍元首相は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関わりの中心にいた。他の政治家では意味が弱い。銃撃断念は教団への敗北で絶対避けたかった」と証言した。

 11月25日に続く3度目の被告人質問。前回は、教団に資産を搾取されて恨みを抱き「高級幹部を確実に仕留めつつ、周囲に被害を広げない」ための武器として銃の製造を始め、22年7月になって教団と関係がある安倍氏に矛先を向けようと決意したと述べていた。

 2日の審理は反対尋問から始まった。検察官は、事件前日からの行動について被告に質問を重ねた。

 22年7月7日、安倍氏は岡山市で行われる参院選の応援演説に出席する予定だった。被告はこの日の朝方、奈良市の教団施設に向かって手製銃を発砲。怒りの対象が安倍氏ではなく、教団にあることを示すためだったという。

 そして岡山へ向かった。銃撃はできずじまいだったが、帰りの電車で、翌日に安倍氏が奈良市の近鉄大和西大寺駅にやってくることを知った。「まさか銃撃に失敗した翌日に(被告の地元である奈良に)来るとは思いもしなかった。偶然と思えないような気がした」

 被告は前月に仕事を辞めていた。銃の製造で借金を抱えており、経済的に行き詰まりかけていた。引くに引けない状況だった。

 翌8日、被告は現場近くの商業施設のトイレで手製銃の安全装置の一つをオフにして発砲の準備を整えた。演説会場近くに移動し、到着した安倍氏を間近に見て「本当に来たなあ」と思った。周囲の状況を確認し「撃つなら後方から」と考えていたが、警察の警備で近づけないでいた。

 その時だった。後方の警備の目がそれて一瞬の隙(すき)ができた。被告は「偶然とは思えない何か」を再び感じ、車道に飛び出した。手製銃に左手を添え、安倍氏の上半身目がけて右手で引き金を引いた。

 検察官「どんな気持ちだったか」

 被告「射撃の心得は無心がいいと本にありましたので、なるべく何も考えないようにしました」

 2度目の発砲で放たれた銃弾が安倍氏に命中した。

 尋問を引き継いだ裁判官と裁判員は安倍氏を狙った理由をさらに掘り下げた。被告は前回公判で、安倍氏が21年に教団関連のイベントにビデオメッセージを寄せていたことを知り「絶望と危機感があった」と証言していた。

 失意が「殺意」に至った心の変化を問われ「安倍元首相と教団の関係が公に続いて教団が肯定されることが受け入れがたく、常に頭の片隅、心の底に引っかかり続けていた。敵意というか、徐々に強まっていく、たまっていく中で、ということ」と述べた。

 教団への怒り、恨み、葛藤は安倍氏以外に向かなかったのか。被告は「他の政治家では意味が弱い」とし、信者である母親を殺害しようと思ったこともあったが「母親の行動は教会の教義に従ったもの」と考えて踏み切らなかったという。

 裁判官「銃撃を思いとどまることは」

 被告「考えたことはありますが、銃の製造に時間と費用をかけて追い詰められていたので、やめてしまうと何のためにこんなことをしたのかと。教団にさらに敗北というのは絶対に避けたかったので、思いとどまることはなかったです」

 信仰の影響で、この世で不幸でも天国では幸せという考えに染まっていた母親を見て「確信を持っている人や組織に通常の手段では(対抗が)難しい」と望みを捨てていた被告。ただ、気持ちを完全には整理できていない様子で、教団幹部を殺害して献金や家族の問題が解決するのかという質問には「直接的には解決しないですが、何らかの助けになるといいますか……」と戸惑う様子をみせた。

 「事件の目的は結局何か」。裁判官からの問いかけに被告は長く沈黙し、「また別の機会に答えさせていただければ」と言葉を濁した。【木谷郁佳、国本ようこ、林みづき、田辺泰裕】

毎日新聞

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