ゴミ箱未設置5万円、ポイ捨て2000円 渋谷区が罰則付き条例案
ポイ捨てが増え、抜本的な対策の見直しが必要――。東京都渋谷区は、繁華街のポイ捨てを減らすため、コンビニエンスストアやテークアウト可の飲食店、自販機の設置者などにゴミ箱の設置や適正管理を義務づける方針を固めた。怠った場合は5万円以下の過料を科し、ポイ捨てした人へも新たに過料2000円の罰則を定める。
近年は家庭ゴミの持ち込みといった利用者のルール違反やテロ対策などを背景に、一部の事業者がゴミ箱を撤去する動きもあった中、行政がその傾向に「待った」をかける構図となった。
店側から不満の声は出ないのか。そしてポイ捨ては減るのか。
◇飲食関連ゴミが大半
長谷部健区長は11月26日、開会中の区議会第4回定例会初日に行われた本会議で「新型コロナウイルス収束以降に来訪者が増加、とりわけ訪日外国人が増えていく中でポイ捨ても増えており、抜本的に対策を見直すことにした」と述べた。
そして、これまで路上喫煙やたばこのポイ捨てを規制していた「きれいなまち渋谷をみんなでつくる条例」を改正する案を提出した。
区は今年度、区内のポイ捨て状況を調査した。
その結果、繁華街やその周辺が顕著で、飲食の容器や包装のゴミが大半だった。
ポイ捨てされていたゴミの販売元は、確認できた範囲でコンビニが63%、カフェが12%だった。
繁華街のゴミは特に深夜帯に増え、日中のうちに商店街の関係者やボランティア、区が委託する清掃業者らが掃除する――の繰り返しで、なんとか景観を維持しているのが実情だ。
◇「責任持って処理を」
改正案では「区規則で定める区域内で、販売した飲食料から発生するごみを回収する容器」の設置を義務づける。
要するに、自分たちの店で売った飲食品から生じるゴミに見合うゴミ箱は置きましょう、ということだ。
具体的には、コンビニ▽テークアウトできるカフェやクレープ店などの飲食店▽自動販売機――などの事業者を対象に、出入り口付近など利用者が容易に捨てられる場所にゴミ箱を設け、適正に管理するよう求める。店内外どちらかという指定はない。
範囲は、特にポイ捨ての多かった渋谷、原宿、恵比寿3駅周辺の特定エリアを区規則で定める方針だ。
区はあくまで「事業者は販売で生じたゴミについて責任を持って処理すべきだ」というスタンスで、区が管理するゴミ箱を新たに街中に設置するといった予定はない。
◇未設置のコンビニは2割
コンビニや自販機のゴミ箱は近年、家庭ゴミの持ち込みといったマナー違反やテロ、新型コロナ対策、人手不足や費用削減などを背景に一部で撤去されてきた。
今回、区が飲食店(自販機は除く)のゴミ箱の設置率を調べたところ、ファストフード店97%▽コンビニ78%▽テークアウトが主でクレープ店のような小規模店など50%――などで、調査全体では68%の店が設置していたという。
実際、センター街には「ゴミ箱ありません」と大きく張り出しているコンビニもある。
◇対応怠れば5万円徴収
「不適正」な管理としては、ゴミ箱からゴミがあふれ、周囲の路上に散乱しているような状態が想定される。ゴミ箱の設置や適正管理を怠った事業者には勧告や改善命令を行い、それにも従わなかった場合は事業者名の公表や5万円以下の過料を科すと条例で定める。実際の徴収額は5万円とする方針だという。
また、ポイ捨てをした人への過料は条例で2万円以下とし、実際は2000円を徴収する方針だという。
改正となれば事業者などへの周知を徹底するほか、これまで路上喫煙やたばこのポイ捨てを指導してきた分煙対策指導員がゴミのポイ捨てへの指導や過料徴収を行えるようにし、現行の25人からの増員も検討するという。
◇効果はいかに
ゴミ箱の設置が増え、ポイ捨てした人から過料を徴収するようになればポイ捨ては減るのか。効果は未知数だ。
区の調査では、ポイ捨ての大半がコンビニ由来である一方、当のコンビニはすでに大半がゴミ箱を設置している。
11月28日の区議会一般質問でも矢野桂太区議がこの点に触れ、「今回の改正だけで劇的な改善が見込めるかというと少し疑問が残る」として、「コンビニと協力し、(店内でなく)外にゴミ箱を置いてもらう代わりに、区がインセンティブ(報奨)を出すという協力の仕組みはどうか」と尋ねた。
一方、長谷部区長は「コンビニを含めた小売店は、販売から生じたゴミについて責任を持って処理すべきだとの考えは変わらない」とし、そうした方針はないと答弁した。
◇本当は街中に……
区内の大学に通う男性(20)は「夜はセンター街でも路上飲みのゴミやたばこのポイ捨てがひどい。ポイ捨てした人への罰則や、店のゴミ箱が増えるのはいいこと」と期待する。
だが、「本当はイベント会場のように、街中に(公的機関が)大きなゴミ箱を設置してくれるのが便利」とも述べた。
改正条例案は10日、定例会最終日の本会議で採決される見通しで、可決されれば2026年4月1日に施行される。6月からは対応を怠った事業者への過料も科されるようになる。
◇温泉地の湯布院でも
ポイ捨て問題を巡っては、全国有数の温泉地、湯布院(大分県由布市)でも4月に似たような市条例が施行された。
だが、同市では施行に合わせ、「おたがい箱」と名付けたゴミ箱を希望する店に無償提供して屋外に設置。その事業者は、自分の店以外で出たゴミも含めて回収する。また、市が管理するゴミ箱も新たに設置した。こうした点は渋谷区の方針とは異なる。
市は「ポイ捨ては目に見えて減った」とし、現時点で店や観光客に過料を科したケースはないという。【尾崎修二】
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