■横浜流星、憧れの俳優・山田孝之と初共演「存在感は出そうと思って出せるものではない」
(左から)横浜流星、山田孝之 (C)ORICON NewS inc.
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■追う役と追われる役で対峙
映画『正体』は、染井為人氏の同名ベストセラー小説を、映画『デイアンドナイト』や『新聞記者』などの藤井道人監督が映画化。横浜が扮するのは、日本を震撼させる凶悪事件を起こし死刑判決を受けた鏑木慶一だ。ある目的のために脱走し、さまざまな変装を繰り返しながら逃亡生活を続ける。山田は、そんな鏑木を追う刑事の又貫を演じる。
――横浜さんは藤井監督とは過去何度も作品をともにしていますが、藤井組に参加するというのは、俳優としてどんな意味を持ちますか?
横浜:ちょうど4年ぐらい前にこの企画の話をいただきました。もともと藤井さんが描きたかった話が、『正体』と近いものだったようです。そこからお互い力をつけようという話になって。いま集まったメンバーだからこその作品になったと思います。どんな作品でも毎回全力を注いでいるので、藤井組だからということは特にないですが、その間ずっとこの作品について監督と話をしていました。
――非常に難しい役柄でしたが、どんな準備を?
横浜:気をつけたのは、鏑木が変装するという部分。彼は20代で、まだ未熟な人間なので、あまり完璧な変装だとリアリティがないのかなということ。監督やメイク部さん、衣装部さんと相談して、20代のリアルに落とし込めたのではないかなと思います。“5つの顔”ではありますが、実際はすべて鏑木。ですから、“根っこの部分を失わない”という意識は大切にしていました。
――山田さんは、そんな鏑木を追い詰める刑事・又貫役でした。又貫もさまざまな“事情”によって複雑な思いを抱えている刑事でしたが、どんな準備を?
山田:もともと事前の準備はあまりしないんです。今回の役も“事件を追い続ける”というシンプルなもので、それ以外の又貫の日常なども描かれていません。仕事として事件を終わらせることにまい進するなか、本当の真実はどうなんだ……というところに心が向いてしまうと揺れ動く。(上司の)川田役の松重豊さんが人の心を持たない冷酷な人間を演じてくださったので、又貫の揺れを表現しやすかったです。
――お2人が(吉岡里帆演じる)沙耶香の部屋で対峙するシーンは、非常に見応えがありました。山田さんがおっしゃるように又貫の揺れ加減が絶妙で…。
山田:あのシーンは、又貫の思いを表情に出さない方がいいなと思っていたのですが、藤井監督からは「もうちょっと感情が表に出た方が良い」という演出がありました。又貫は相手の感情を探りにいく立場なので、さじ加減が難しかったです。又貫が会見を行うシーンでも、どこまで感情を表に出すか…かなり考えました。
横浜:どちらのシーンの表情も、とても見応えがありました。
――けっこう藤井監督とは意見交換をしながらの撮影だったのですか?
山田:そうです。ほんのちょっとの加減なんですけれど。でも監督自身は「こうしてください」という方ではないので、ある程度は任せていただきました。
■クランクイン前に行われた藤井監督、横浜流星、山田孝之での食事会
――沙耶香の部屋で対峙するシーンは、緊張と緩和のバランスもすごかったですよね。
横浜:あのシーンが山田さんのクランクインだったんですよね。
山田:そうそう。あの撮影の前に藤井監督から「3人で会いましょう」と連絡があったんです。たぶん藤井監督はあのシーンのことを話したかったと思うんです。でも僕は作品に入る前って、実際はまだ役になっていないので、あまり先入観を持ちたくないんです。だから閉店間近まで、ずっと作品に関係ない話しかしなかった。藤井監督は話したそうでしたけど(笑)。
――横浜さんは山田さんの意図に気づいていたのですか?
横浜:全然作品の話にならなかったので、「これはなんの会なんだろう…?」という思いはありました(笑)。僕は山田さんの話を吸収したいから、ずっと聞いていました。
――役について考えてはいくものの、やっぱり現場でぶつけ合って生まれるものが大切なんですね。
山田:それはとても大切だと思います。
――激しいアクションでしたが、たくさんのテイクを重ねたのでしょうか?
山田:そうです。取っ組み合いのアクションでは、セットが崩れたり、動きが大きかったりするので、段取り通り一発でうまくいくなんて奇跡に近いんですよ。それと、初日だったので緊張していて、かなり本気でいってしまいました。
横浜:その方がリアルに芝居ができるのでありがたかったです。又貫が本気で来てくれたので、こちらも思い切り、本当に泥臭く向き合えました。
■横浜流星、憧れの俳優は「山田孝之」
――横浜さんは、以前から山田さんを憧れの俳優と話されていました。お芝居で対峙するのは初めてだと思いますが、いかがでしたか?
横浜:芝居も人柄もたたずまいも、すべてが学びでした。存在感って出そうと思って出せるものじゃないなと改めて感じました。鏑木としては、又貫に対面して捕まったらすべてが終わってしまう。そういった危機感を、山田さん演じる又貫の圧倒的なオーラによって、死に物狂いで人間臭く演じることができました。
山田:そう言っていただけるのはうれしいです。でも、こちらは又貫として対峙しているので、ほぼ客観的な目線はないんです。もちろんセリフやタイミングとか段取りがあるので、ほんの数パーセントの客観は残しますが、やっぱり役としてしか見ていない。だから、流星だからどう…っていうことではないですね。
横浜:そうなんです。こちらも鏑木として生きているので、山田さんへの尊敬はありつつ、「逃げなければ…」という思いだけです。
――山田さんから見た横浜さんの鬼気迫る鏑木はいかがでしたか?
山田:鏑木でしたよね。それぐらいやらないとできない作品。それは『正体』に限ったことではないのですが。でも俳優ってそういうものだと思います。
――そういうものとは?
山田:俳優という職業は、作品の内容やセリフを覚えるみたいなことがあると思いますが、一番は“役として生きること”。今回だったら、流星が鏑木を理解して、誰よりも鏑木としてそこに生きること。そこにいるのは横浜流星ではなく鏑木なんです。この世の中に鏑木という人間が存在しているんだと思ってもらうことが、俳優としての一番の醍醐味だと思うんです。その意味で、流星は鏑木でした。
――横浜さんも山田さんも「次にどんな人物になるのだろう」とワクワクする俳優さんです。
横浜:そう思ってもらえるとやりがいになります。
山田:これからも、変な役やりますよ!まあ僕は変だとは思っていないですけどね(笑)。
取材・文/磯部正和
写真/山崎美津留
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