<デモクラシーズ>世界の人類では少数派「それでも民主主義がいい」のはなぜなのか

2024/12/31 10:30 

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 民主主義がいま、危機にある。

 2025年で戦後80年を迎える日本は、民主国家であり続けてきた。日本国憲法の前文はこう始まる。

 <日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し……>

 この一文が規定するのは「国民主権」であり、「代表制民主主義」だ。その原則に基づき、私たちは選挙を通じて社会の進む道を決める実務を政治家に託してきた。

 だが、国民の「政治不信」「政治離れ」は深刻だ。

 { この記事では、次の内容を知ることができます。}

 { ・世界で「民主国家」と「専制国家」のどちらが多いか}

 { ・主要国の民主主義に対する満足度合い}

 { ・民主制と専制制のどちらが「優れている」のか}

 ◇高い不信、低い投票率

 内閣府による23年の世論調査では、国の政策に国民の考えが反映されていると思う人は22・5%。思わない人は75・7%に達した。

 そして選挙に行く人は減っている。

 戦後長く7割前後で推移してきた国政選挙の投票率は1990年ごろから下がり始め、近年は5割前後だ。自治体のトップを決める首長選挙では2割台も珍しくなくなった。

 「信頼できない政治の決定に、自分で政治家を選んでもいない人は従うでしょうか。民主主義の原則は『みんなで決めて、決めたことにはみんなで従う』です。政治離れが進めば、その原則は機能しなくなります」と吉田徹・同志社大教授(比較政治学)は指摘する。

 ◇世界で台頭する専制国家

 こうした風潮は日本にとどまらない。そもそも、民主国家・地域は世界の半数しかない。

 スウェーデンの独立研究機関「V―Dem研究所」と英オックスフォード大の研究チームによると、23年、世界の91カ国が「民主国家」に分類され、88カ国は「専制国家」だった。

 ウクライナに侵攻してまもなく3年になるロシア。国際社会の声に耳を貸さないまま周辺諸国との軍事摩擦を繰り返す中国――。国際情勢は、世界人口の7割を占める専制国家が振り回している。

 一方の民主国家では、どこも政治不信が高まっている。西欧では左右ポピュリズムが台頭しており、米国のように「世論の分断」が深まる国もある。

 米国の調査機関「ピュー・リサーチ・センター」は24年2月、アメリカやドイツなど24カ国を対象にした世論調査で「自国の民主主義に満足していない」国民の割合が59%(中央値)に上ったと公表した。前回22年(19カ国対象)から11ポイント増えたという。

 日本では、強権的な指導体制を望む声が少しずつ高まっている。

 各国首脳が参加する国際会議「ミュンヘン安全保障会議」による17~22年の調査によると、「議会や選挙に煩わされない強い指導者を持つこと」について、日本では27・2%が「良い」と答え、05~09年の調査から6・1ポイント増えた。過半数は「悪い」と答えたが、その割合は65・7%から57・1%に下がっている。

 この風潮は20年春に始まった新型コロナウイルス禍で加速した。

 宇野重規・東京大教授(政治哲学)は「日本はコロナ対策が遅かった。中国のような権威主義国家の方が、決定は早くて良いという言説がありました」と振り返る。

 ◇パフォーマンスは民主国家の方が高い

 国内外で揺らぐように見える民主主義だが、宇野教授は「これまでも民主主義は試練にさらされ、それでも続いてきた」とも指摘する。加えて、比較政治学の世界では専制制と民主制のどちらが優れているか、結論は出ているという。

 例えば、乳幼児の死亡率は、民主制の度合いが高いほど、低くなるという研究がある。

 「個人を尊重する民主制の国の方が、長期的にはパフォーマンスは高くなる。経済成長率や幸福度、ジェンダー平等などもそうですね」と吉田教授は説く。

 「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに試みられた他のあらゆる形を除けば」と言ったのは、英国のチャーチル元首相だった。

 ◇民主主義を「アップデート」する試み

 もっとも、危機を乗り越える試みは必要だ。より機能を発揮できるように民主主義をアップデートする実践が日本にもある。

 例えば、選挙制度も議論の対象になっている。「1人1票」という原則から見直し、1票を分散して投じられる仕組みや、世代間で差を付ける考え方がある。

 自治体で広がっているのが、議会を介さず市民が直接、税金の使い道や政策のあり方を考える取り組みだ。積極的に声を上げない「サイレント・マジョリティー」に政治参加を促すため、くじ引きで選んだ市民に政策課題を議論してもらう場も増えている。

 デジタル技術の著しい革新がもたらすものも大きい。人工知能(AI)を使えば、選挙でなく、もっと日常的に民意を収集することができると模索する人たちが日本にもいる。それは「政治家は要るのか?」という問いにもつながっている。

 そうした試みが良いか悪いかも、みんなで考えていけばいいというのが民主主義だ。

 吉田教授は、こうも言う。

 「人類の歴史は、民主化の歴史です。それが他の動物と違う最たるものではないでしょうか。自分の運命は自分で決めたい、コントロールしたいという根本的な欲求です。人が人であることを突き詰めると、民主主義という政治体制が望ましいと思うのですが」【春増翔太】

毎日新聞

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