「空いてる」を逆手に取った“攻めたPR”でバズった志摩スペイン村、ポケモンやVTuber……

2025/05/12 09:10 

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”攻めたPR”でバズった『志摩スペイン村』(C)SHIMA SPAIN VILLAGE CO.,LTD.

 「空いているから映え放題」――2019年、HPに掲げた「学生満喫キャンペーン」のPRが大バズリし、一躍全国にその名を知らしめた志摩スペイン村。その後も『人気VTuber』とのコラボイベントや『ポケモン』とのスペシャルイベントなど様々な施策で注目を集め、来場数を増やしているという。開業から31年、志摩スペイン村のPR戦略と「今」を聞いた。

【写真】「これはテンション上がる」志摩スペイン村がポケモンの世界に…!

■「自虐…という狙いはなかった」SNSで話題沸騰も、PRに込めた真意は

 <きらめく太陽、紺碧の海、豊かな大地……スペインのおおらかな気風に包まれて、忘れかけていたゆとり、遊びごころを取り戻す〉。そんな“こころの再発見”をテーマに、1994年に伊勢志摩に誕生した複合リゾート「志摩スペイン村」。中心となるテーマパークの「バルケエスパーニャ」は、情熱の国スペインを感じさせる異国情緒あふれる園内に、絶叫系から癒し系までバラエティ豊富なアトラクションや参加型のエンターテインメント、フラメンコショーにグルメなどが揃い、近くに大規模なテーマパークがなかったことからもオープン当初は大渋滞が起こるほどの大盛況となったという。

 その後もアトラクションやイベントなどで集客対策をしてきた志摩スペイン村が日本全国から一躍脚光を浴びたのは2019年2月のこと。Twitter(現・X)上であるユーザーが「三重県にある志摩スペイン村、その客足の少なさからとうとう自虐ネタに走りました」とつぶやいたことがきっかけだった。

  その自虐ネタとは、HPにPR文として掲載された「並ばないから乗り放題 待ち時間ほぼゼロ! 全28機種のアトラクションを好きな時間に好きなだけ乗り回せる!」「空いているから映え放題 人が少ないから映り込みナシ!」「混雑していないからこそ2000%遊びたい放題」など。TwitterをきっかけにHPを見た人たちからは「すがすがしいほどの自虐」「思い切りよし」「逆に気になって行きたくなる」などに加え、「何年経とうがテーマパーク最推しは絶対にスペイン村」「スペイン村のパレード最高やで」といった応援コメントも殺到。Twitterのトレンドにランクインするとともに、一時はサーバーダウンが起きるほど大反響となったのだ。

 しかし、「自虐ネタ」と言われたこの文章について、志摩スペイン村の上村健さんは、「そのような狙いはまったくありませんでした」と説明する。

「テーマパーク業界では、2~3月上旬は閑散期と言われ、夏場の繁忙期と入園者数の差がひじょうに大きくなってしまうことが課題でした。そこで当パークでは、春休み中の学生を集客するべく期間限定で『学割満喫パスポート』を用意。パスポートは例年販売していましたが、キャンペーンとして、HPで学生さんに刺さるであろう“空いているからコスパがいい”ことを打ち出そうと考えたんです」(上村健さん)

 “空いている”というネガティブな表現には、社内でも賛否両論あったという。しかし、蓋を開けてみれば、賛成派も予想だにしなかった大反響。日本全国にその名が知れ渡り、客層もそれまでメインだった小さい子ども連れのファミリー層から、学生を中心とした若者に拡大。上村さんも「SNSの影響力と反応に驚いた」と振り返る。

■志摩スペイン村に広がる推し活 多彩なコラボでも“スペインらしさ”はぶれず

 しかしその後、コロナ禍が直撃。「せっかく多くの方々に志摩スペイン村を知っていただけるようになったところだったので、ひじょうに辛かった」という時期を耐え、制限緩和とともに再びの集客をめざした。そしてここでもまた、志摩スペインは思いがけず、X上で大バズリすることになる。

 きっかけは2021年12月、人気VTuberグループ「にじさんじ」所属の周央サンゴがプライベートで訪れた志摩スペイン村の魅力について配信内で語ったことだった。2022年5月ファンによってその切り抜き動画がYouTube等に投稿されると、瞬く間に拡散。翌日には志摩スペイン村のHPにアクセスが急増。Twitterのトレンドにもその名が再び登場し、ネットニュースにも取り上げられるなど大反響を呼んだのだ。

 このことをきっかけに、3ヵ月後には、周央サンゴと志摩スペイン村のコラボ動画の配信が実現。周央サンゴが志摩スペイン村を巡る動画はたちまち100万回再生超えを記録。さらに翌2023年2月11日から4月2日にかけては、スタンプラリーをはじめ、周央サンゴが副音声を担当した映像を劇場で上映、アトラクションやグッズ、フードメニュー等を揃えた園内でのコラボイベントも実施。それまで志摩スペイン村を知らなかった層や、20代の男性グループなどへ客層の幅を広げ、期間中は前年比約1.9倍の23万6000人を集客。その日の様子とともにスペイン村の魅力をSNS上で拡散する人も多く、来場者数はその後、着実にアップしていったという。

 これを契機に、志摩スペイン村は様々な方面とのコラボを実施しており、30周年イヤーの昨年は、周央サンゴに加え、同じく「にじさんじ」所属の人気VTuberの壱百満天原サロメとのコラボイベント、スリーピースロックバンド・ヤバイTシャツ屋さんの貸切ライブ、「『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』ポケモン課外授業in志摩スペイン村」と題したイベントを開催。いずれも大盛況となった。

 ここまで“狙う”のではなく、どちらかというと受け身の状態でバズってきた志摩スペイン村だが、数多く寄せられるコラボ依頼に関しては、「納得するまで協議している」という。

「やはりスペインをテーマにした施設ですので、今まで大事にしてきた志摩スペイン村のコンセプトや景観が大きく崩れないか、IPとスペイン村の関係性が上手く成り立つかなど、考えながら判断しています」

■伊勢志摩の観光起爆剤へ 原点の“遊び心”を未来へつなぐ

 その関係性を示す例としては、昨年のヤバイTシャツ屋さんの貸切ライブがあげられる。リーダーのこやまたくや(Gt、Vo)が京都出身で、小学生時代は毎年志摩スペイン村を家族で訪れ、修学旅行も志摩スペイン村。そんな思い出の地にメンバーと行き、CDの特典DVDの撮影を行いたいと希望したのが始まりだった。同パークへの思いで意気投合したことから、ワンマンライブが実現。志摩スペイン村の仲間たちが登場する特別な演出も施されたこのライブは、チケット完売、2日間で満員御礼の約1万2000人を動員、成功を収めた。

 このように、同パークのコンセプトや景観、関係性を重視しながら、VTuberにアニメにロックバンドなど“推し活”勢に嬉しいコラボ企画やイベントを次々と実現し、人気を呼んでいる志摩スペイン村。だが、 “推し活”という文化が定着していく中で、小さい子ども連れのファミリー層など一般客との共存ははかれているのか。その点を聞いてみると…。

「イベント開催日はたしかに混雑はしますが、皆さん、推しが志摩スペイン村を大切にしてくださっている気持ちを理解されていることもあってか、トラブルはこれまで一切なく、コラボ期間中も一般のお客様と問題なく共存できています」

 今年で開園から31年。今後については、「さらに幅広い世代の方に楽しんでもらえるよう、変わらず質の高いサービスを心がけ、どんどん新しいものも取り込んで、常に挑戦し続けたいと思っています。そして、子どもたちが大人になって来園されたとき、スペインのおおらかな気風に包まれることによって、子どもの頃の忘れかけていた遊び心を取り戻せるような、そんな魅力を変わらず伝えていけたらと思います」と上村さん。

 パワースポットとして人気の伊勢神宮を有する伊勢志摩とはいえ、継続的に観光客を誘致し続けるのは簡単なことではない。SNSでのバズリをきっかけに、幅広い層に人気を拡大している志摩スペイン村が、今後もこのエリアの観光の起爆剤として、どんな話題を振りまいてくれるのか、期待したい。

取材・文/河上いつ子
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