94歳ギリヤーク尼ケ崎さん、芸人人生かけた「特別な場所」で熱演
投げ銭を支えに半世紀以上にわたって路上で踊り続け、「伝説の大道芸人」と称されるギリヤーク尼ケ崎さん(94)=本名・尼ケ崎勝見=の青空舞踊公演が10月13日、東京・西新宿の新宿三井ビル「55HIROBA(ひろば)」であった。体調が万全でない中、ギリヤークさんは3演目を熱演。詰めかけた約300人の観衆から温かな拍手が送られた。
◇満身創痍でも
ギリヤークさんは、手足が震えるパーキンソン病や背骨が曲がる脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)を患い、2023年3月には腸を手術するなど、満身創痍(そうい)の状態。公演3日前には「足が腫れちゃって痛い。踊りにならないな」と毎日新聞の取材に話した。
ただ、ギリヤークさんにとって55ひろばは特別な場所だ。1978年から19年までほぼ毎年、体育の日(現・スポーツの日)を中心に公演を続け、「芸人生命」をかけてきた。新型コロナウイルス禍で中止が続いたが、昨年、4年ぶりに復活した。
今回のはじめの演目は、命がけで生きる人たちの思いを代弁した「じょんがら一代」。真っ赤な着物に白い羽織、頭にかさをかぶったギリヤークさんが、車椅子から立ち上がって演技すると、観衆からどよめきや「ギリヤーク!」「日本一!」のかけ声が飛んだ。ギリヤークさんは「父さん、母さん、日本一の大道芸人になりましたよ」と述べた。
おはこの創作舞踊「念仏じょんがら」では、55ひろばのらせん階段を上がり、観衆に向かって数珠を振り回すと、大きな拍手に包まれた。バケツの水を頭からかぶるおなじみのパフォーマンスで締めくくると、ピンクや黄、水色などの紙に包まれた投げ銭が舞った。
5年前にギリヤークさんの人形を作り、本人に手渡した東京都杉並区の美術家、橋本悠希(ゆうき)さん(36)は終演後、「ピュアでひたむき。いろいろな人がほっとけないエネルギーが集まっている場所に感じた。ギリヤークさんの中に流れている時間を少しでも感じられてうれしかったです」と話した。
ギリヤークさんは北海道函館市生まれ。職を転々としながら、創作舞踊の道を志した。68年10月、38歳の時に東京・銀座で初めて大道芸を披露。70年代半ばからはフランスや米国など海外にも活動の場を広げた。95年の阪神大震災、01年の米同時多発テロ、11年の東日本大震災、24年の能登半島地震の被災地でも鎮魂の踊りをささげてきた。【後藤豪】
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