急きょ搭乗のインド機が墜落 悲劇は空港から家族写真送った直後に

2025/06/15 06:30 

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 インド西部アーメダバードのエア・インディア機墜落では、これまでに270人の死亡が確認されている。「なぜ」。突然、愛する人を失った遺族は悲痛な思いを口にした。

 バダサブ・サイードさん(60)は、弟のイナヤトさん(48)が妻と2人の子供と墜落機に乗っていた。

 アーメダバード出身のイナヤトさんは、英ロンドンでソフトウエアエンジニアとして働いていた。学生の頃から優秀で、温厚な性格。親族の間でもめ事があれば英国からでも仲裁に入り、一族の「支柱」のような存在だったという。

 イナヤトさんの一族はイスラム教徒で、イスラム教の行事を祝うために家族で帰省していた。オーストラリア・シドニーで暮らすバダサブさんも帰省しており、家族で水入らずの時間を過ごしたばかりだった。

 休暇を終えて英国にUターンするイナヤトさんらを、トラブルが襲った。当初はアーメダバードから首都ニューデリーを経由してロンドンに飛ぶ航空券を用意していたが、直前にフライトがキャンセルになったという。急きょ便を変更し、墜落した直行便を利用することになった。

 アーメダバード空港に到着したイナヤトさんから、バダサブさんに電話がかかってきた。普段と変わらぬ様子で、親族の誕生日を祝うために「12月にまた会おう」と約束した。空港で撮影して送ってきた家族の写真は幸せそのものだった。ところがエア・インディア機は離陸から1分ほどで墜落。イナヤトさんらは帰らぬ人となった。

 「体が凍り付き、涙があふれた」。アーメダバードから一足先に豪州に戻っていたバダサブさんは、墜落の一報を聞き、急きょ再び帰省した。もし便が変更にならなければ弟一家は助かっていたのではないか。バダサブさんにはやるせない思いが募る。

 バダサブさんのもう一人の弟ワリスさん(38)は遺体が収容されている病院に出向いてDNAのサンプルを提供した。身元の確認作業を待っている。

 ワリスさんは一刻も早くイナヤトさん一家の遺体を引き取りたいと、アーメダバードの自宅と病院の間を確認のため一日に何度も往復している。「かなり待たされており、本当に心が痛む」。ワリスさんの目から涙がこぼれた。

 墜落を巡っては14日、ナイドゥ民間航空相が記者会見し、飛行データを記録した「ブラックボックス」を回収していると明らかにした。その分析を通じて原因を明らかにし、再発防止につなげる構えだ。またDNA型鑑定が終わり次第、遺体を遺族に引き渡す方針も示した。【アーメダバード松本紫帆】

毎日新聞

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