「お悔やみトリップ」発言 下関市長に被爆地訪問を要望「実相知って」
広島・長崎の被爆地周遊を山口県下関市の前田晋太郎市長が「お悔やみトリップ」と市議会で発言した問題で、広島県原爆被害者団体協議会理事長の箕牧智之(みまきとしゆき)さん(82)は30日、前田市長に被爆地訪問を要望する手紙を送った。箕牧さんは「市長を問い詰める思いはない。被爆の実相を知り、市民に平和の大切さを伝えてほしい」と、被爆地訪問を求める理由を話した。【柳瀬成一郎】
箕牧さんは1945年3月の東京大空襲後、父の出身地・広島に疎開。8月6日の原爆投下時は、飯室村(いむろそん)(現・広島市安佐北区)で家族と暮らしていた。
原爆投下当日の夕方、3歳の箕牧さんは爆心地から約17キロ離れた家の前で、逃げ惑う多数の被爆者を目撃。その中の中年女性の一人が家の前で立ち止まり、箕牧さんの母親に「缶詰を開けて」と告げた。母親は缶を開け、中の桃を女性に渡した。箕牧さんにはその光景が忘れられない。
原爆投下後、箕牧さんは父親を探すため入市被爆し、戦後は汚れたぼろの服を着て育った。文房具も満足に買えず、働きながら高校に通学する貧苦の日々が続いた。
前田市長は9月19日の下関市議会で、被爆地周遊について「広島の原爆ドームに来たい人が、長崎にもあることを理解し、二つを回った後、四国のお遍路回って、お悔やみトリップじゃないけれども。滞在時間が拡大する訳ですよ」などと発言。その後、記者会見を開いて被爆者らに謝罪した。
しかし、箕枚さんは「議場での発言としてはあまりにも軽い。被爆地は核兵器廃絶、平和を祈り続ける場」として、前田市長に広島入りを求める手紙を送ることを決断。手紙に「平和記念公園一帯は観光地ではない」「放射能をあびて多くの人の命が奪われた街」などと記し、未来の平和につなげたいという思いを込めた。
3歳時の箕牧さんの記憶を基に地元の高校生が描いたという絵を、箕牧さんは広島県北広島町の自宅で大切に保管している。中年女性の服はぼろぼろで幽霊のよう。箕牧さんは恐怖のため母親の後ろに隠れている。
箕牧さんは絵を見つめながら「慰霊碑に献花し、原爆資料館をじっくり見て、被爆者にその感想を教えてほしい。そして、下関のトップとして市民にも伝えてほしい」と語り、前田市長からの返事を待っている。
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