<袴田巌さん再審>精神をむしばんだ死刑の恐怖 拘禁症状続く袴田巌さんの日常
1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、死刑が確定した袴田巌さん(88)に対するやり直しの裁判(再審)の判決が26日、静岡地裁で言い渡される。死刑とされた袴田さんは2014年に47年7カ月ぶりに釈放されたが、超長期の拘禁で精神をむしばまれ、意思疎通が難しい状態が続いている。袴田さんの日常を追った。
◇ルーティンにこだわり
8月下旬のある日。午後1時に袴田さんと同居する姉秀子さん(91)宅を訪れると、秀子さんと飼い猫2匹が迎えてくれた。30分後、昼寝から起きた袴田さんは、日の当たる柔らかいお気に入りのソファに腰掛けた。
釈放から数年は連日、浜松の市街地で7~8キロを10時間くらいかけて歩いていた。
最近は体力の衰えから車移動が中心で、この日は支援者とともに午後3時から日課のドライブに出発した。
向かったのは少年時代に遊び場だった寺や、小学生の頃に家族で遊んだ川の土手。「昔の楽しい時間を思い出してもらいたい」という計らいだった。
夕食はそば屋に入った。周囲から「おいしい天ぷらそばがありますよ」と勧められたが、「うどんだ」とかたくなに譲らない。
店の出口には置物があり、袴田さんは10円玉を「お供え」して店を後にした。
ドライブの締めくくりに、ドラッグストアに寄るのが決まりだ。あんパン2個とみたらし団子3本を購入し、午後8時ごろに自宅に戻った。
◇「神の国」「裁判は終わった」
袴田さんの言動がおかしくなり始めたのは、死刑が確定した80年ごろからだ。
秀子さんと東京拘置所で面会した際に、「食事に毒を入れられてるみたいなんだよ」と話すようになり、菓子の袋を頭からかぶって「強烈な電波が顔面を襲ってくるので防止している」と説明することもあった。
90年ごろになると、秀子さんとの面会を拒否することが増えた。袴田さんは「面会は神の国で」と話していたという。事件については「事件なんかありゃしない」「裁判は終わった」などと振り返っていた。
拘禁中や釈放後に袴田さんを診察してきた精神科医の中島直医師=多摩あおば病院院長=は「死刑が執行されかねない厳しい現実が今の状態を招いた可能性がある。表情は少し柔らかくなったが、釈放直後も今も基本的な部分は変わっていない」と指摘する。
袴田さんは23年10月に始まった再審で、精神状態を理由に出廷を免除された。
中島医師は「無罪判決が出ても劇的に改善することはないだろうが、少しずつ良くなっていくのではないかと期待している」と語った。【荒木涼子】
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