「治水のために犠牲」は当たり前? 農家が問う被災リスクの分担
埼玉県内に大きな被害をもたらした2019年10月の台風19号から5年。国は、官民含めた河川流域の関係者が協力して洪水対策に取り組む「流域治水」の推進を打ち出した。計画に盛り込まれたのが、上流の農地などに河川からあふれた水を流し込み、下流の被害軽減を目指す遊水地の整備だ。だが、被災を引き受ける形となる農家への補償の議論は十分とは言いがたい。下流のために上流が犠牲になるのか――。そんな不満が農家からは漏れる。
荒川水系の1級河川・入間川の流域では、台風19号で越辺川や都幾川などの堤防計7カ所が決壊。同流域では2人が死亡(関連死含む)、住宅約500棟が全半壊し、床上・床下浸水は計約1000棟に及んだ。
国土交通省や県、市町は連携し、20年から入間川流域の「緊急治水対策プロジェクト」を開始。河道内の土砂掘削や樹木伐採、堤防強化などを進め、同規模の大雨でも洪水被害が起きないようにすることが目標で、遊水地の整備も盛り込まれた。坂戸市三芳野地区では、広さ約100ヘクタール(東京ドーム21個分)、貯水量約500万トンの遊水地を造成する計画だ。
「農家は地域住民と共存しているのが大前提なんだ」。同市紺屋で「原農場」を経営する原伸一さん(52)は、越辺川沿いの畑一面に広がる鮮やかな若葉の緑を眺めながら話す。
36歳で農家を継ぎ、空き缶が投げ捨てられるような耕作放棄地を整備し、農地として復活させてきた。草だらけの荒れた土地が、人々の命を育む麦畑に生まれ変わったことに近隣住民も喜んでいるという。高齢化で耕作できなくなった農家から借りた土地を含め、麦を96ヘクタール、米を40ヘクタールで栽培。東京ドーム29個分に相当する広さだ。そのうち約4分の1が遊水地計画に位置する。
「愛情を持って育ててきた土。なぜその優良地に『治水のために犠牲になるのが当たり前』というように計画を押しつけられないといけないのか」。納得できない思いは強い。
国土交通省のホームページによると、遊水地には大雨時、一部を低く作った堤防(越流堤)からあふれさせた水を流し込む。そうすることで下流の水位を一時的に下げ、都市部などでの氾濫を防ぐという。
実際に遊水地として整備された場合、浸水を受け入れることに対する補償として地権者には1度、補償金が支払われるが、その後の農地復旧の面倒を国が完全に見るわけではない。河川管理上支障がある流木やゴミは国費で撤去されるが、浸水で畔(あぜ)や水路に被害が出る可能性もある。「耕作可能な状態に復旧するとまでは言えない」(国交省荒川上流河川事務所)という。
下流のために上流が犠牲を払う。そんな構図に対しては、23年12月の定例県議会でも、議員から改善を求める声が上がった。
「リスクを流域全体でシェアすることは、同時に努力をみんなでシェアすること。(堤防から水を)あふれさせて被害を少なくする際、(下流の自治体といった)受益団体はどのような負担をするのか考えるべきだ」
これに対し、大野元裕知事は「特に受益する下流域からの支援が必要」と、負担の必要性を認める答弁をした。
新潟大農学部の吉川夏樹教授は、「新たに作られる施設(堤防や越流堤)が原因で被害が生じるのであれば、対象となる農家が従前と同様に耕作ができるよう復旧するのが当然。農地復旧については農林水産省がしっかり制度設計し、農家との合意形成が不可欠」と話す。
今回の衆院選では、与野党を問わず多くの政党が「流域治水」の推進を公約の中に盛り込んだ。水害対策推進のための経済的負担や被災リスクを流域全体でどう分担していくのか、省庁をまたぐ横断的な議論が必要だ。【鷲頭彰子】
-
あしなが奨学金、栃木でも申請者急増 2年連続で半数以上が不採用に
親を亡くしたり、親が重い障害で働けなかったりして、学費の工面が困難な高校生に奨学金を給付するあしなが育英会(本部・東京都)の「あしなが高校奨学金」の申請者が急…社 会 2時間前 毎日新聞
-
銅板ぶきの神社屋根、盗難被害で地肌むき出し 栃木・足利
栃木県足利市は23日、同市名草上町の厳島神社で、社殿の屋根の銅板が盗まれたと発表した。観光客が3日に気付き、同神社が4日、足利署に被害届を出した。 市教委文…社 会 14時間前 毎日新聞
-
連続強盗 千葉県警が被害車両2台を押収 実行役、逃走に使用か
首都圏を中心に相次ぐ強盗などのうち、16日と17日に千葉県白井市と市川市であった強盗致傷事件で奪われた被害者宅の車計2台が発見され、千葉県警が押収していたこと…社 会 15時間前 毎日新聞
-
大阪1歳児暴行死 母親の26歳交際相手を逮捕 傷害致死容疑
大阪府内のマンションに住む1歳の男児が何者かに暴行され死亡した事件で、大阪府警は23日、母親の交際相手で無職の長谷川廉斗容疑者(26)=大阪市旭区=を傷害致死…社 会 15時間前 毎日新聞
-
ホテルのフロア改造し大麻栽培の疑い 経営者ら2人逮捕 福岡
福岡県警門司署などは23日、福岡市城南区の自営業の男性(43)と同市東区の会社役員の男性(43)を大麻取締法違反(営利目的共同栽培)などの容疑で逮捕し、捜査を…社 会 15時間前 毎日新聞