ダブルワークで自殺 「労災」認定 大学と企業の掛け持ちの60歳
岐阜大の研究員として働き、大手航空測量会社の顧問を掛け持ちしていたダブルワークの男性(当時60歳)が、3年半前に自殺して労災と認められていたことが関係者への取材で明らかになった。大学で上司の厳しい指導を受け、会社で孤立していたとされる。労働基準監督署は両職場での就労状況を総合的に考慮した結果、強い精神的負荷が生じていたと判断した。
労災認定を巡っては、2020年9月施行の改正労災保険法で、複数の職場で受けたストレスを総合的に検討し、労災対象になるかを判断する新制度が導入された。労働力不足などを背景に副業が推進される中、新制度に基づく認定が明らかになるのは珍しい。
遺族や代理人弁護士によると、男性は橋梁(きょうりょう)の設計や保全を専門とする技術者だった。19年12月からは岐阜大の研究員として、アフリカで橋梁技術者を育成するプロジェクトに参加。収入を確保するため、同じ頃に航空測量大手「パスコ」(東京)に中途入社した。
岐阜大では現地の担当者と英語でやり取りしていたが、上司の准教授から「英語の確認作業ばかり。ぜひもう少し高いレベルでの作業を」「プロジェクトが前進しない」などとメールで指導を繰り返し受けた。准教授は男性の問い合わせに返信しないこともあった。
パスコでは非常勤顧問として自治体から受注した橋梁の点検調査を担当した。配属先に部下はおらず、仕事を一人で背負った。減給を打診されたこともあったという。
◇「複数の業務で心理的負荷」
ダブルワークを続ける中で男性は21年5月、命を絶った。残されていたメモには「会社で誰も私の顔を見ません」と書かれていた。
遺族の申請を受けて調査した名古屋北労基署(名古屋市)は両職場での就労状況を検討。岐阜大の准教授が厳しく指導し、男性の立場を尊重せずに相談にも適切に応じなかったとした。パスコでは橋梁調査全ての責任を一人で負い、適切な評価もされずに孤立を深めたと指摘した。
これらを総合的に判断した結果、「複数の業務による心理的負荷から精神障害を発症した」と認定。24年4月に労災に当てはまると結論付けた。岐阜大とパスコはそれぞれ取材に「個人情報保護の観点から回答は控える」とした。遺族側は大学と会社に損害賠償を求める訴えを起こすことも検討している。
政府は改正労災保険法の施行に伴い、本業と副業の労働時間を合算して残業時間を計算し、パワハラなどによる心理的ストレスも各職場の状況を総合的に考慮するとした考え方をまとめている。改正前は一つの職場ごとに検討していた。
遺族側代理人の立野嘉英弁護士(大阪弁護士会)は「複数の職場で受けたストレスを全体的に評価して労災認定された意義は大きい。副業が推進され、ダブルワークを選ぶ人が職場にいることを踏まえ、上司らが健康状態を把握することが重要だ」と指摘する。【土田暁彦】
◇相談窓口
・#いのちSOS
「生きることに疲れた」などの思いを専門の相談員が受け止め、一緒に支援策を考えます。
0120・061・338=フリーダイヤル。月・木、金曜は24時間。火・水・土・日曜は午前6時~翌午前0時
・いのちの電話
さまざまな困難に直面し、自殺を考えている人のための相談窓口です。研修を受けたボランティアが対応します。
0570・783・556=ナビダイヤル。午前10時~午後10時。
0120・783・556=フリーダイヤル。午後4時~同9時。毎月10日は午前8時~11日午前8時、IP電話は03-6634-7830(有料)まで。
・まもろうよ こころ(https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/sns/)
さまざまな悩みについて、LINEやチャットで相談を受けている団体を紹介する厚生労働省のサイトです。年齢や性別を問わず、自分に合った団体を探せます。
・こころの悩みSOS(https://mainichi.jp/shakai/sos/)
悩みを抱えた当事者や支援者への情報のほか、相談機関を紹介した毎日新聞の特設ページです。
-
都立大特任准教授の財務省職員を盗撮の疑いで逮捕 容疑を否認
駅で女性のスカート内を盗撮したとして、警視庁高井戸署は16日、財務省職員で東京都立大特任准教授の米田泰隆容疑者(44)=東京都杉並区=を性的姿態撮影処罰法違反…社 会 1時間前 毎日新聞
-
列前方を素通りし中学生刺したか 男子生徒も深い刺し傷 北九州
北九州市小倉南区のファストフード店で14日夜、中学3年の男女2人が男性に刺され、女子生徒が死亡した事件で、男性は入店直後、レジに並ぶ列の先頭付近にいた数人の横…社 会 4時間前 毎日新聞
-
エスカレーター「右側で立ち止まる」45% 条例施行の名古屋市調査
名古屋市は、2024年度のエスカレーター利用に関するアンケートの結果を発表した。 調査は9月に満18歳以上の市民2000人を無作為に抽出し、有効回収数は10…社 会 6時間前 毎日新聞
-
新生児ケアを仮想体験 初産家庭などの手助け目指しVR教材開発
新生児ケアを仮想体験できる教材の開発を聖隷クリストファー大(浜松市)が進めている。手本となる看護師のケアの手順を360度カメラで撮影。看護師を目指す学生らが、…社 会 6時間前 毎日新聞
-
「遺族に返すまで」海底に放置の183人 遺骨収容にかける思い
第二次世界大戦中の1942年の水没事故で日本人と朝鮮人の労働者計183人が亡くなった山口県宇部市の海底炭鉱「長生(ちょうせい)炭鉱」。海の中に残されたままの遺…社 会 6時間前 毎日新聞