「豊穣の海」に重低音 佐賀オスプレイ、地元配慮も「帰れー」の悲鳴

2025/07/09 21:24 

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 独特の鈍い重低音が、「豊穣(ほうじょう)の海」の空に響き渡った。陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイの配備が9日から始まった陸上自衛隊佐賀駐屯地(佐賀市)。安全性や環境への影響を懸念する地元との調整で、計画の打診から配備までに10年以上かかったこともあり、陸自関係者はこの日の対応で地元への配慮をにじませた。不安を拭えない住民らは、駐屯地周辺で反対の声を上げた。

 午前10時19分ごろ、一時的に駐機していた陸自高遊原(たかゆうばる)分屯地(熊本県益城町)から飛来したオスプレイの機影を豆粒大に捉えた。同時に「ブロブロブロ」と胸にずんと響く音が聞こえる。プロペラ部分を上に向けた「ヘリモード」で同22分、隣接する佐賀空港の滑走路に着陸した。その後、誘導路を進んで駐屯地前のエプロン(駐機場)に到着し、乗員が降りてくると、待ち構えた隊員約200人や関係者らが拍手を送った。

 オスプレイの配備計画は2014年7月に国が佐賀県に要請して以降、地元の反対などもあって約11年の歳月を要した。

 到着後に格納庫で開かれた駐屯地の開設式で、荒井正芳西部方面総監は「オスプレイの運航は安全管理、事故防止や騒音対策に加え、駐屯地からの排水等によるノリ養殖等への影響が発生しないよう万全の体制を取ることが重要だ」と、地域のなりわいに対する気配りをうかがわせた。

 実際に駐屯地には、敷地内に降ってたまった雨水を、有明海からくんだ海水と混ぜ合わせ、ノリの養殖に影響を与えない比重にして海に排出する施設を2カ所整備している。

 オスプレイの安全性についても、佐賀駐屯地の青山佳史(よしじ)司令は記者会見で、輸送航空隊長として自身もオスプレイの操縦教育を受け「今までの機体以上に安全性を感じた」と強調。「佐賀を愛し、愛される駐屯地となるよう尽力したい」と訴えた。

 一方、駐屯地のゲート前では、賛成派と反対派の市民ら約100人が待ち構えた。オスプレイが上空に姿を見せると、「ストップ‼ オスプレイ佐賀空港配備反対」などと書かれた横断幕を掲げた市民から「来るなー」「帰れー」などと悲鳴のような声が響いた。配備計画に反対する市民団体は、駐屯地の使用停止と配備中止を求める中谷元・防衛相あての要請文を駐屯地の担当者に渡した。

 佐賀空港の展望デッキでオスプレイが飛来する様子を見ていた佐賀県多久市の男性(50)は「決定したことなので反対しても仕方がない。事故が起きないよう防止策には努めてほしい」と注文を付けた。

 陸上自衛隊の輸送機V22オスプレイの佐賀駐屯地配備に伴い、9日で暫定配備が終わった木更津駐屯地(千葉県木更津市)。その近くに住む女性(71)は「家の窓から見えるほど低空を飛び、『落ちたら大変。怖いな』という思いで眺めてきた」と振り返り、佐賀へと無事に移駐を進めることを願った。

 木更津市の渡辺芳邦市長は、佐賀への移駐完了後も機体が定期機体整備で木更津に飛来するとして、「引き続き陸自オスプレイをはじめ自衛隊機の運用を注視する」とのコメントを出した。【成松秋穂、日向米華、西貴晴、宮田哲】

毎日新聞

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