「負けても褒める」指導へ 卓球五輪メダリストを育てた名将の変化
福原愛さんや石川佳純さんら数多くの卓球五輪メダリストを育て、だじゃれを交えた五輪解説も話題になった日本卓球界の名将、近藤欽司さん(82)。神奈川とゆかりは深く、今年100周年の節目を迎える県卓球協会の会長を務める。卓球界をどうリードしていくのか、思いを聞いた。【横見知佳】
2012年のロンドン五輪。テレビの解説者として訪れた会場で、日本卓球界にとって初メダルが決まった瞬間は忘れられない。前回大会の08年北京五輪では、初採用された卓球女子団体に監督として臨んだが、惜しくも4位。「お金を出してでもほしいメダルだった」。北京の街で売られていたレプリカの金メダルを持ち帰った。
「目標は達成できなかったが、また次の目標を持ち続けることができてよかった」と前向きだった。4年後、ともに悔しい思いをした教え子たちが夢をかなえてくれた。
指導者を志したのは、全国高校総体(インターハイ)で優勝したのがきっかけだ。地元開催だった高校2年で臨んだインターハイは、自分の試合で負け、団体戦決勝で敗れた。「1年間、血がにじむような努力をした」。3年のインターハイで頂点に立った。
高校卒業後は日産自動車に就職したが、「仲間と一緒に優勝する達成感を味わってほしい」と、22歳の時、白鵬女子高(旧京浜女子商業高)卓球部で指導者の道へ。同時に、教員免許を取得するため、夜間大学に6年通った。大学で授業を受け、高校に戻った後も未明まで生徒と練習し、高校の宿直室で寝泊まりする日々。26歳で、チームをインターハイ初優勝に導いた。
ただその後は順風満帆とは行かなかった。インターハイで14年の間、準決勝には進めなかった。無理がたたり36歳で病に倒れ、約2カ月病床で過ごしたが、それが指導者としての自らを見直す機会になったという。
「もっと厳しく、どうしたら勝てるのかと泥沼に入っていた。自分を追い詰め、生徒にも怖がられていた」。褒めることやユーモアの大切さを感じたのはこのときだ。「勝っても叱っていたのが、負けても褒めるようになった」。会話が増え、生徒との距離はぐっと縮まった。
感謝や友達への思いやり、目的を明確にして苦しい練習を耐えることの必要性を伝えた。指導方針を変えたことで40歳の時、チームはインターハイ決勝進出、41歳で二度目の優勝を果たすことができた。
60歳まで優勝8回。定年退職後は外部指導者としてチームを率いて、50回連続インターハイ出場の記録を作った。この女子連続出場記録はいまだに破られていない。JOCエリートアカデミーや世界選手権日本代表チームの監督などを歴任し、23年、県卓球協会の会長に就任した。
神奈川は卓球協会の会員数が1万7500人と日本一。それを2万人に増やすのが当面の目標だ。さらに、国民スポーツ大会では3位以内を目指し、「卓球王国 神奈川」を定着させたいという。
11月には石川佳純さんを招いて100周年記念イベントも開く予定だ。「卓球を通じてたくさんの友達ができた。一生卓球、一生青春です」
◇近藤欽司(こんどう・きんじ)さん
1942年生まれ。愛知県出身、横須賀市在住。全日本女子チーム監督や北京五輪女子代表監督などを経て2023年から県卓球協会会長。休日はロードバイクで往復30キロの距離を走る。趣味のオカリナ演奏は、「たまに音が外れて“おかしな”になっちゃう」。
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