卓球・山田瑞恵「全種目でメダルを」 デフリンピック日本初開催へ
聴覚障害者にとって最大の国際スポーツ大会「デフリンピック」が、11月に東京を中心に開かれる。デフとは英語で「耳が聞こえない」という意味。大会は「デフスポーツの魅力や価値を伝え人々や社会とつなぐ」などの大会ビジョンを掲げる。日本で初めてとなる「ろう者の五輪」を前に、デフ競技に打ち込む国内のアスリートは何を思い、どんな期待を抱いているのだろうか。【川村咲平】
◇卓球・山田瑞恵(29)=SMBC日興証券
聴覚障害者としての人生は、デフ卓球との出合いで大きく変わった。競技の魅力を知るからこそ、自国開催のデフリンピックを通じて、アスリートの輝く姿を見てほしいと願う。
先天性の難聴だが、両親も姉も耳が聞こえない。音がない生活は幼い頃から「当たり前」だった。中学校で部活動を選ぶ時、親族が好きだったという卓球を選んだ。当初はそこまでのめり込むつもりはなかったが、中学3年生の時に転機が訪れた。
ある試合で「ボコボコに」負かされた。相手は日本代表の経験者。負けず嫌いの性格に火が付き、高校は卓球の強豪校への進学を決めた。上下関係が厳しく「部活をやめたい」と弱気になったが、デフリンピック出場という目標が支えになった。
念願のデフリンピック初出場は、高校3年だった2013年。食事が喉を通らないほど緊張し、海外勢の力強いボールに驚いた。17、22年と3大会連続で出場し、計5個のメダルを獲得した。いずれも結婚前の旧姓「川崎」での出場だった。
24年12月には東京大会の代表に内定した。「自国開催の誇りを持ち、全種目でメダルを取りたい」と抱負を語る。
視覚だけを頼りに繰り広げられるラリーこそデフ卓球の醍醐味(だいごみ)だ。知名度が低いデフスポーツの現状にはさびしさがある。
保育園も学校生活もずっと普通校で過ごし、聞こえる友人に囲まれて育った。学校では友達が先生の話を伝えてくれ、部活の顧問とは「卓球ノート」を使って意思疎通した。「(耳が聞こえないことで)不便を感じることはあまりない」と思えるのは、周囲の助けがあってこそだ。ただ、聞こえない人も気兼ねなく暮らせるためにも「もっと手話を知ってほしい」と力を込める。
大会に向けては、手話をベースにした目で見る形の新しい応援スタイル「サインエール」も作られている。手話がもっと身近なものとなり、コミュニケーションの場が広がることを期待している。
◇パラリンピックより古い歴史
聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」とは、どのような大会なのか。
オリンピックやパラリンピックと同様、夏と冬、それぞれ4年ごとに実施される。初めて開かれたのは1924年のフランスでの夏季大会。その歴史は五輪には及ばないが、パラリンピックよりも古い。
2025年の東京大会は「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025」が正式名称で、第1回大会から約100年の節目にあたる。25年11月15~26日の12日間、陸上やサッカー、柔道など19競技が実施される。70~80カ国・地域から約3000人の選手が参加する見通しだ。
車いすや手足の欠損といったパラアスリートのように目に見えるかたちではないが、デフアスリートにも平衡感覚に障害のある人が一定数存在する。情報保障が整わないためによるコミュニケーションの問題もある。聞こえない人が平等な条件で競い合える場として、デフリンピックは欠かせない大会となっている。
平等を期するため、選手は競技中、補聴器を外す。陸上や競泳は光の合図でスタートを知らせるなど、視覚で分かる工夫が随所に見られるのも特徴だ。
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