左手の指がない県岐阜商の主力「みんなと変わらない」 夏の甲子園

2025/08/11 06:00 

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 生まれつき左手の指がないため、グラブは右手にはめる。打球をキャッチすると、グラブを左脇に抱え、右手でボールを投げる。

 器用な動きを繰り返す県岐阜商の横山温大(はると)選手(3年)。走攻守そろったチームの主力として、憧れの甲子園にやってきた。

 「ハンディキャップがあっても、こんな大きな舞台でプレーできる」。子供たちに勇気や希望を与える存在になりたいと思っている。

 ◇のめり込んでいった野球

 横山選手が野球を始めたのは小学3年。兄昂大(こうだい)さん(28)のプレーを見て、「ボールを打ってみたいな」と思ったのがきっかけだった。

 「人一倍練習しないと、周りの子についていけないぞ」

 父直樹さん(49)の言葉通り、左手のハンディを乗り越えようと、どんどん野球にのめり込んでいった。

 投手として三振を取った時、打者としていい当たりを出した時、その感触が心地よかった。

 左バッターとして右手でバットを握り、左手を添える。ボールがバットにミートする時まで添え続け、左手で押し込みながら、振り抜いていく。

 もともとは右打ちだったが、地元のスポーツ少年団で野球を始める前、直樹さんから「左打ちの方が振り抜きやすいから」とアドバイスを受けて転向した。

 ◇努力家の勲章

 中学時代は投手と外野手を兼任。守備では捕球してからグラブを外して右手でボールを握るまでのスムーズな動きがポイントになる。

 一秒でも早くしようと、自宅で直樹さんからボールを投げてもらって地道に練習してきた。

 素早い返球のため、手を抜きやすいようにグラブの手の入り口部分を広くしている。

 「もっと早くできる。まだまだ足りない」

 努力家のグラブには左腕に抱えた時にこすれたり、汗が染みこんだりした勲章が刻まれている。

 「自分もいつかはあの場所に立ってみたい」

 甲子園の夢をかなえるためには、地元の強豪が魅力的だった。

 県岐阜商に入り、当初は投手でプレーしていたが、球速が目標とする140キロに届かず、苦しんだ。高校1年の秋、打力を生かせる外野手に転向した。

 ◇打率は5割超え

 最終学年で迎えた岐阜大会。打撃は19打数10安打の5割超え。守備でもチームメートからの信頼は厚く、河崎広貴主将(3年)は「守備範囲は広く、グラブの握り替えも早い。ハンディとは思っていない」と話す。

 チームとしては3年ぶり31回目の甲子園の切符。初戦は11日の第1試合で日大山形と対戦する。

 岐阜大会から調子は変わっていない。試合前の練習でも鋭い打撃を見せている。

 「甲子園のプレーにわくわくしている。みんなと変わらないプレーでたくさんヒットを打ちたい」

 目指すは一戦必勝での全国制覇。その表情は自信に満ちている。【砂押健太】

毎日新聞

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