「地ビール」活況で大手も参入 “淘汰”進み、苦戦の企業も
クラフトビール(地ビール)市場が活況を呈している。民間の調査によると、全国にある醸造所は2023年末時点で800カ所に達し過去最多。各地の個性的なビールが楽しめるイベントにも人気が集まっている。大手メーカーも、低迷するビール市場の再活性化を担うカギと注目する。
日本橋三越本店(東京都中央区)で25日、全国から集めたこだわりの地ビールが味わえるイベントが始まった。担当者によると、近年は顧客から地ビールに関する要望が多く寄せられるようになり、24年度はそれまで130種類だった取り扱い銘柄を180種類に増やした。イベントも地ビール人気を受けて企画したもので、27日までの期間中に2000人の集客を見込んでいるという。
かつてビールの製造は事実上、大量生産ができる大手業者に限られていた。しかし1994年の酒税法改正で製造免許取得に必要な最低製造量が引き下げられたことで、中小の事業者でも参入できるようになった。「地ビール」とは、こうした小規模業者が造るビールの総称だ。
ちなみに、一般社団法人「全国地ビール醸造者協議会」(JBA)副会長で宮下酒造(岡山市)の宮下晃一社長によると、「クラフトビール」の名称が広まったのは2012年ごろから。米国発祥のクラフトビールが日本に輸入されるようになったのがきっかけのようだ。「地元の農産物を使うなどした地元密着の商品は『地ビール』、こだわりの味わいを強調したい商品などは『クラフトビール』とアピール内容で使い分ける業者が多いようです」と教えてくれた。
酒類の容器を製造する「きた産業」(大阪市)の統計によると、醸造所の数は99年に全国で約300カ所。その後10年ほどで約200カ所に減り一時的にブームが去った。味や品質に課題があった醸造所の存在などがその原因として指摘されている。税制改正で、麦などに限られていたビールの原材料に18年4月から、果実などが加わったことをきっかけに、醸造所の数は増え続けているという。
◇苦戦のメーカーも
注目が集まる地ビールだが、今季は苦戦を強いられたメーカーもあった。東京商工リサーチの調査によると、地ビールメーカー62社の1~8月の出荷量は、前年同期比で8・6%減だった。調査を始めた10年以来、同期で前年を下回ったのは初めてという。
出荷量の増減を詳しく見ると、62社中「増加」は28社、「横ばい」は1社、「減少」は33社と二分された。増加の要因は「飲食店、レストラン向けが堅調」(21社)、「スーパー、コンビニ、酒店向けが好調」(19社)など。減少は「スーパー、コンビニ、酒店向けが不調」「物価上昇による消費の抑制」(各7社)だった。東京商工リサーチが「消費者の間で、価格やブランドによる選別志向が強まった」と指摘するように淘汰(とうた)が進んでいるようだ。
大手でも参入の動きが強まっている。15年に東京・代官山にレストラン併設型のクラフトビールの醸造所をオープンさせるなどの事業を手がけてきたキリンビールは10月、クラフトビール専業の事業部を新設した。
ビール全体に占めるクラフトビールの販売量は23年時点で1・8%程度(キリン推計)と少ないが、「クラフトビールを飲んだことはないが興味がある」とする潜在層が多いことに着目。酒税変更が最終段階を迎える26年10月を前に、この層の掘り起こしを強化し、市場拡大につなげたい考えだ。
JBAの宮下さんに業界の展望について尋ねると、参入する業者が増え、盛り上がりをみせていることは「良いこと」と受け止める。ブームとして終わらせないために「勉強会などを通してまずは品質の底上げをして、業界全体を発展させていくことが必要」と話している。【嶋田夕子】
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