欧米関税交渉、焦点は「デジタル」 決裂なら米IT企業の課税強化も

2025/04/11 14:13 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、米国のトランプ政権との関税を巡る交渉が失敗した場合、グーグルなどの米巨大IT企業のEU圏内での売り上げなどへの課税を検討する考えを示した。10日公開された英フィナンシャル・タイムズ(FT)のインタビューで明らかにした。一方でトランプ政権はEUの巨大IT規制が関税に近い存在だと指摘し、見直しを求めている。今後、欧米間の通商交渉で「デジタル」を巡る攻防が過熱しそうだ。

 FTのインタビューでフォンデアライエン氏は、トランプ大統領が「相互関税」の上乗せ分の発動を停止した90日の間に「完全に偏りのない」合意を米国と目指すと意気込んだ。一方で交渉失敗時に備えて報復措置の検討も進めるとし、その中の候補として「デジタル広告収入への課税がありうる」と明言した。

 米国の対EU貿易収支は、物品については2023年時点で1570億ユーロ(約25兆円)の赤字だが、デジタルを含むサービスについては巨大IT企業がけん引する形で1090億ユーロの黒字となっている。

 EUの課税強化が現実になればグーグルや、フェイスブックを運営するメタなどにとって大きな打撃となる。ただ、規制強化をめぐってはEU内で濃淡があるのが実情だ。アイルランドは法人税を下げるなど米巨大IT企業の欧州拠点誘致を進めており、規制強化には反発が予想される。米国との対立激化を懸念する声も強く、本格検討時には、加盟国間で足並みが乱れる可能性もある。

 デジタル分野は既に米欧の対立の火種になっている。EUが施行した巨大IT企業の自社優遇などを禁じた「デジタル市場法」では、違反すると世界での年間総売り上げの最大10%にも及ぶ巨額の制裁金を科される可能性がある。

 これに対し、日本の公正取引委員会にあたる米連邦取引委員会(FTC)のファーガソン委員長は4月2日、「米企業への課税の一種に見えてきている」と、制裁金は事実上の貿易障壁だと反発している。

 現時点で、EUは巨大IT規制の見直しには否定的だが、米国は今後も規制の見直しを迫るとみられ、関税回避に向けた交渉で焦点の一つになりそうだ。【ブリュッセル岡大介】

毎日新聞

経済

経済一覧>

写真ニュース