安野貴博氏、プランが実現に近づくのは“精通している人”と組んだ時 誰と組むかは「『何をやる…

2025/04/18 07:00 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

安野貴博氏

 政治経験も地盤もゼロで2024年の東京都知事選に立候補して注目を集めたAIエンジニア×起業家×SF作家・安野貴博氏。都知事選も戦った「スピード」と「心理的安全性」を両立するチーム安野のルールの真髄とは? 著書『はじめる力』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成して届ける。

【写真】都知事選で話題!安野貴博氏『はじめる力』書影

■自身は合気道型のリーダーシップ

リーダーシップのあり方は多様になってきています。

強力なカリスマ性でみんなを引っ張っていくリーダーがいたり、背中で語るリーダーがいたり。

その中でも、今はコミュニティがコミュニティらしくあるために、後ろから支えていくようなリーダーシップの時代が来ているのかもしれません。

私は自分のリーダーシップの形を、合気道型のリーダーシップだと思っています(実際に合気道をやったことはないので完全にイメージで語っているのですが……)。自分の力だけではなく相手の力や場の力をうまく使う、自分中心に推進するのではなく、コミュニティやマーケットのうねりをうまく活かすリーダーシップ。そんなタイプです。

都知事選では、当初キックオフをしたときのメンバーは6人でした。その1か月後には、マニフェストチームやエンジニアチームといったコアメンバー約100人、コアメンバー以外にも仲間が約1000人にまで増え、ともに新しい挑戦に臨みました。

ボランティアとして集まってくれたみなさん一人ひとりのことをきちんと知る時間は少なかったのですが、それでも、たったの2週間でも「チーム安野」は、まとまりを持って選挙活動を進めることができました。

ここでは、選挙戦や起業の際の話などを交えながら、これからのチームビルディングや、リーダーシップについてお話しできたらと思います。

■コラボで適切な一歩を踏み出す

チームをどうはじめるか。「何をするか」にもよりますが、何かをはじめるときは、大抵誰かとのコラボレーションからはじまることが多いです。

事情をよく知る人とコラボすれば、経験のない分野でも着実な一歩目を踏み出せます。たとえば私が2社目に起業したMNTSQは、弁護士の友人と一緒に創業しています。M-1に出たときも、相方は、吉本興業のNSC(吉本総合芸能学院)という養成所に通っていました。業界の中の人と一緒に組めると、業界の良いところも悪いところも把握することができ、その中で自分たちは何ができるのかが、明確に見えるようになります。

よくいわれる話として、新規事業やスタートアップのアイデア自体は、100あったとしたら、そのうちきちんと検討されるものが10前後。そのうちの1つが、ようやく実現までたどり着くのです。

私も、試してみたけれどうまくいかなかったプランがたくさんあります。その中で、実現に近づくものは、大抵、事業の対象となる業界や専門分野に精通している人と組んでいるときなのです。私がテクノロジーに詳しくて、もう1人が別の分野に詳しい。そういう異分野のコラボレーションがうまく決まったときは、最終的に成果に結びつく例が多いです。「最初に誰に声をかけて、誰と組むか」は、「何をやるのか」と同じくらい大事なのです。

選挙のときも、チームにどんな人が必要なのかを考えて、声をかけていきました。まずは政策、プロジェクトマネジメント、デザイン、エンジニアリング、それぞれの分野でコアになってくれそうな人です。学生時代の友人や、立ち上げた会社で一緒に働いていた同僚、なかには中学生のときにネット上で知り合って、今回15年ぶりに連絡した人もいました。それぞれに「こういうことを考えているんだけどどう?」と話してみて、「協力する」と言ってくれた6人が初期のメンバーです。

このメンバーでキックオフの後、選挙にあたってのコミュニケーションの核となる部分をつくっていきました。最初にどういうメッセージを出すのか、出馬会見の内容はどうするか、選挙公報にはどんな内容を入れるのか、どういう見せ方で、何の要素を押していくべきなんだろうか、夜な夜な議論していました。

キックオフで最初のオンラインミーティングをしてから、2週間後の6月6日の記者発表会。そこで出馬をオープンにして、手伝っていただける方を募りました。その2週間後に50人集まり、選挙が終わる7月の頭には、中心的に動いてくれる方は100人程度、私たちが動けない部分について、お手伝いをしてくださる方は1000人以上にもなっていました。

この人数の増え方は、通常の組織ではあり得ないスピード感です。スピードが速いといわれるスタートアップですら、従業員が5人から50人までいくのにだいたい2年か3年くらいかかるといわれています。出馬も初めてなら、こんな増え方をする人員をまとめるのも初めての経験でした。

■「スピード」と「心理的安全性」を両立するチーム安野のルール

私はチームをまとめるときに、次のようなことを大事にしています。

1 メンバーの力を最大限活かせるチームにすること
2 スピード感のあるチームにすること

そのために、次の3点を意識しています。
・判断の基準を示すこと
・心理的安全性を確保すること
・リスクを先に提示すること

選挙戦においても、日々人数が増えていくチームをまとめていくために、「こういうルールでやっていきましょう」という「運営方針」をSlackに投稿しました。選挙という特殊な状況下での内容ではありますが、紹介させていただきます。

【運営方針】
素晴らしい皆様に続々とSlackにジョインいただいており、大変心強く思っています。

すでに50人を超えるメンバーに活動していただいております。ジョインいただいた方は、お互いリスペクトを持って議論や実行できる方々だと認識しています。

一方で、普通の企業であれば数年かけてつくり上げるべき規模のチームを3日で集めたことによる様々なトラブルなどが今後予想されます。そこで、チームとしての行動指針をアナウンスしたいと思います。

-スピードに最適化する
 -投票日まであと26日という超短期決戦であり、そのためにはとにかくスピードが第一だと考えています
 -そのために、下記でバランスを取ります
  -リスクは一定取る
   -アウトプットが100点にならないかもしれないリスクを取ります
   -後から方針転換してご迷惑をかけることもあるかと思います
  -合意形成は目指さない
   -判断は安野、チームリーダーによりトップダウンの形で行ないます
    -その代わり対外発信、行動の責任はすべて安野が負います
   -1票でも多く獲得するための非常時のオペレーションです
   -(ブロードリスニングとの考え方に照らし合わせた整理として)たくさんの人の声を聞きながら意思決定することと、全員が納得するまで詰めることは異なります
   -納得を目的としたコミュニケーションの量はやや少なくなるかと思います
-お互いにリスペクトする
 -職種も世代も考え方も違う方々が集まっています
 -しかも、政治の話という感情が乗りやすい話を正面から議論する必要があります
 -ですが、少なくともここにいる方は相手をリスペクトしながら善意ベースで解釈しディスカッションできる方々だと思います
 -個別の議論の場でもお互いへのリスペクトは大事にしていただきたいです
-ボトムアップに動いていただく
 -マネジメントがまだ超未成熟です。ですので的確にタスクを切ってうまくマネジメントしていくことはかなり厳しいと思っています
 -そのため、浮いているボールを見つけて自分から拾って動いていただくと大変に助かります
 -たぶんSlack上では困っている人がたくさんいますので、助けられると思った方は手を挙げていただけると嬉しいです
 -逆に困ったことが出たら大声でヘルプを求めていただくのがよいと思います! このチャネルやLINEのオープンチャットなどご活用ください
 -こんなことをしたほうがいいんじゃないかという提案も大歓迎です
-法令遵守
 -リスクを一定取るとはいえ法令違反、ヘイトスピーチなどの越えてはいけないラインは絶対に守りたいです
-体調第一
 -特にリーダーレベルの方たちなどフルスロットルで動いていただいている方もいらっしゃると認識しています
 -その点には大感謝です
 -が、あと1か月弱もあるプロジェクトですので、くれぐれも体調は第一でお願いします!!!

■著者・安野貴博(あんの・たかひろ)
合同会社機械経営代表
AIエンジニア、起業家、SF作家。開成高校を卒業後、東京大学へ進学。内閣府「AI戦略会議」で座長を務める松尾豊の研究室を卒業。外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを経て、AIスタートアップ企業を2社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。未踏スーパークリエイター。デジタル庁デジタル法制ワーキンググループ構成員。日本SF作家クラブ会員。2024年、東京都知事選挙に出馬、デジタル民主主義の実現などを掲げ、AIを活用した双方向型の選挙戦を実践。著書に『サーキット・スイッチャー』『松岡まどか、起業します』(ともに早川書房)、『1%の革命』(文藝春秋)。
ORICON NEWS

エンタメ