漫画表現、キャラの表情は手が大事 『カグラバチ』作者が学んだ『ヒロアカ』の魅力【堀越耕平×…

2025/12/06 17:55 

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『僕のヒーローアカデミア』『カグラバチ』コミックス(C)堀越耕平/集英社 (C)外薗健/集英社

 漫画『僕のヒーローアカデミア』作者・堀越耕平氏と『カグラバチ』作者・外薗健氏の特別対談【後編】。「キャラクターの手を描くのが嫌いだったんですけど、『キャラクターの表情が一番よく表れるのは手』といったお話をされていたインタビューを読んでから、手の描写にもこだわり始めて。今では手を描くのが好きになりました」と語る外薗氏に堀越氏は「めちゃくちゃ上手に描けていると思う」と応じた。

【画像】ヒロアカ作者絶賛した『カグラバチ』戦闘ページ

 堀越氏は1986年生まれの愛知県出身。2006年に『ヌケガラ』で第72回手塚賞佳作を受賞、2007年に「赤マルジャンプ」に『テンコ』が掲載されて読切デビューを果たす。翌2008年同誌に『僕のヒーロー』掲載。2010年に『逢魔ヶ刻動物園』で「週刊少年ジャンプ」連載デビュー。2012年に『戦星のバルジ』を連載後、2014年より『僕のヒーローアカデミア』の連載をスタートさせ、2024年に完結させた。

 外薗氏は2000年生まれの大阪府出身。2020年に『炎天』で第100回手塚賞準入選。「ジャンプ GIGA 2021 SPRING」に『さらば!チェリーボーイ!』、「ジャンプ GIGA 2021 SUMMER」に『CHAIN』、「週刊少年ジャンプ」で2022年に『まどぎわで編む』、『ロクの冥約』を掲載。初の連載作品『カグラバチ』を「週刊少年ジャンプ」にて2023年よりスタートさせ、2024年8月に「次にくるマンガ大賞2024」コミックス部門1位などを受賞した。

■外薗健『ヒロアカ』で学んだ漫画表現「キャラクターの表情が一番よく表れるのは手」
――外薗先生は初めて『ヒロアカ』を読んだ時、どのような感想を持ちましたか。

外薗:初めて『ヒロアカ』を読んだのは高校生の頃で、勧めてくれた友達に「おもろいわぁ」って言った記憶があります。

堀越:良かったー(笑)。

外薗:ちょうど雄英体育祭が終了する頃のお話でした。当時は漫画を描いていたわけでもないので、純粋にお話や絵の上手さを楽しんでいましたね。僕は漫画をそんなに読んできたわけではないんですけど、『僕のヒーローアカデミア』や『NARUTO-ナルト-』、『呪術廻戦』は単行本が出るたびに買っていました。

堀越:嬉しいです。でも『カグラバチ』は、作風的には『NARUTO-ナルト-』の影響が強いから、全然ジャンルの違う『ヒロアカ』がそんなに好きだなんて思えない(笑)。

外薗:『ヒロアカ』の話をするたびに、堀越先生からは「君が『ヒロアカ』を好きなわけないじゃん」みたいなことを言われますよね(笑)。たしかに『NARUTO-ナルト-』の影響は大きいですけど、『ヒロアカ』も大好きです。

――漫画家になられてからは、『ヒロアカ』の見方が変わってきたところはありますか。

外薗:キャラクターの性格や特徴を表現する手法はもちろん、絵の描き方もめっちゃ勉強させてもらっています。僕は最初、キャラクターの手を描くのが嫌いだったんですけど、「キャラクターの表情が一番よく表れるのは手」といったお話をされていたインタビューを読んでから、手の描写にもこだわり始めて。今では手を描くのが好きになりました。

堀越:めちゃくちゃ上手に描けていると思う。『カグラバチ』の手で一番好きなのは、「居合白禊流」を構えた時の座村の手。千鉱が構えた時もそうだけど。

外薗:ほんとですか。ありがとうございます。細かい機微はめっちゃ大事にしています。

■『ヒロアカ』の魅力は「読者の感情に沿った演出の描き方」
――外薗先生が考える、『ヒロアカ』の一番の魅力は何だと思いますか。

外薗:僕が一番すごいなと思うのは、読者の感情に沿った演出の描き方ですね。例えば雄英高校を飛び出したデクをA組のみんなが引き戻そうとするシーンがあるじゃないですか。飯田君がデクに追いついて、その手を掴むシーン。コマ割りやセリフなど、全ての要素を駆使してどのキャラクターも取りこぼさずにあのシーンを描き切ったのはすごいなって思います。登場キャラクターたちの感情と読者の感情が、一緒に「グワッ」って高ぶるようになってますよね。

 お茶子が校舎の上から叫ぶシーンも、モノローグや各キャラクターの視線・動きで読者の感情を高めつつ、大きな縦のコマを使って、叫ぶ前のお茶子の振りかぶりをしっかり見せる。そしてめくりでお茶子に叫ばせてうずくまるデクを描いている。読者を置き去りにしないような見せ方に、漫画家としての上手さが詰まってるなって思います。

――外薗先生は『ヒロアカ』のどのキャラクターが一番好きですか。

外薗:ミリオかな。治崎とのバトルがめちゃくちゃ心に残っています。敵の幹部を一瞬で倒すんですが、その後に個性を消されてしまっても足掻き続けて……その展開がかっこよすぎて最高っす。いい漫画って、コミックスで読んでいると「あの作品のあの巻が最高!」って巻があるじゃないですか。『ヒロアカ』の17巻はまさにそれですね。

――好きなシーンもミリオの戦闘シーンですか?

外薗:そうですね。でも他にも好きな回があって。僕は堀越先生の表情の描き方もよく参考にさせていただいてるんですけど、物語終盤でお茶子が泣くシーンがあって。あの表情にはかなり衝撃を受けました。顔がくしゃくしゃになっているけど、可愛さも残ってるという、絶妙なバランス。キャラクターの感情ってだいたい眉間のしわとかで表現しがちなんですけど、この時のお茶子はまぶたの微妙なシワとかもリアルに描かれているんです。『ヒロアカ』って、どちらかといえば漫画的な表現が多いじゃないですか。そのバランスを崩さずに、本当にリアルな表情を描き出していて、すげえって思いました。

■堀越耕平『カグラバチ』魅力は「かっこいい」の追求 毎週の見せ場は「良い所でもあり、弱点でもある」
――堀越先生は『カグラバチ』の第1話を読んでどんな感想を持ちましたか。

堀越:『カグラバチ』は自分の中の「かっこいい」を追求して、ちゃんと漫画として出力できているな、と思いました。普通、最初の連載作品は「連載会議を通す」っていう目的が優先されて、自分の中のこだわりみたいなものを後回しにしがちなんです。そうすると、どんどん「自分が思っている原初のかっこよさ」が置き去りになっちゃう。

 でも『カグラバチ』は、「自分の中のかっこよさ」を一番前に据えたまんまの作品だったから、すごいなって思いました。千鉱がテーブルの上にのって敵を斬るシーンを、真上から映すコマがあるんですけど、ストーリーを語るだけなら必要ないんですよ(笑)。でもそこを省かず、「ここがかっこいいんだよ!」って読者に伝えることを大切にしている。この人はちゃんと自分がある人だと思いました。僕にはできないな(笑)。

――『カグラバチ』と言えば決めゴマの構図が特徴的ですが、構図はどのように生み出しているのでしょうか。

外薗:あまり構図についてロジカルに考えたことがないので、説明するのが難しいんですが……決めゴマの構図を決める時は、まずはその場面のロケーションを決めて、「この状況で面白く見せるにはどうしたらいいんだろう」と考えていると思います。それから自分の中でビビッとくるまで何パターンかラフを作りますね。あと、映画が好きなので、自然と構図にも映画の影響が出ていると思います。

堀越:天才ですね。見せ場となるコマの構図には、「これはほかの漫画ではやってないぞ」っていう、企みがあったりするんですか。

外薗:それはあります。「漫画では見たことないぞ」っていう映画などの映像のイメージを、漫画に落とし込む感じですかね。

――堀越先生から見た『カグラバチ』の魅力とはなんでしょうか。

堀越:やっぱり見せ場となるカットの画面作りと、シチュエーションですかね。例えば、最近掲載された第86話は落ち着いた内容だったのですが、その中で唐突に斉廷戦争の様子が見開きで描かれていて、「ただ大人しいだけの回にはしないぞ」っていう意思を感じました。

外薗:見せ場がないと、自分の中で「大丈夫かな」って怖さが出るんですよね。『カグラバチ』は物語の展開が早いので、大人しい回をやっちゃうと一気に盛り下がっちゃうかなって……。読者が『カグラバチ』に期待しているのも、刺激のある見せ場だと思っているので、どこかにそういったカットを入れたいなと思っていました。

堀越:これは『カグラバチ』の良い所でもあり、弱点でもあると思ってるんですけど、毎週毎週、フリからオチまでしっかり組み立てるんですよ。すごく丁寧で読みやすいんですけど、前の週の最後の引きでめちゃくちゃ盛り上がっていたところが、次の週の頭の「フリ」の部分でリセットされ、もったいなく感じることもあります。盛り上げたいシーンでは組み立てを無視して、前の話のテンションのまま次の話に突き進むのもいいんじゃないかな。

外薗:そこは自分でもめっちゃ心当たりのあるところです。ただ、連載漫画であることを考えると、どの話から読んでも同じように楽しめて、「この回はここが面白いんだ」というところをしっかり描かないと伝わらないんじゃないかなって……。でも、単行本で読むと疾走感がなくなっているな、と感じることはたしかにありますね。

堀越:一回「うぉー!」って感情が高ぶると、読者としては「うぉー!」ってずっと走っていきたい。そういった読者の感情に沿って、勢い任せにすごいシーンがバンバン描かれる、みたいなことをやっても良いかなってちょっと思ったりする。でも、毎週毎週しっかりしたネームを作ることは僕にはできないんで、それもまた魅力だと思う。ちゃんとフリオチがあるから、1話1話の満足感がすごい。

■「天才じゃん!」 表情を描かずに構図だけで表現『カグラバチ』の名シーン
――堀越先生は『カグラバチ』のどのキャラクターがお好きですか。

堀越:伯理です。すごくいいキャラクターだと思います。性格も、バックボーンも、キャラの立ち位置も、全てがおいしいというか。それでいて明るい性格で、辛気臭くならないじゃないですか。描いてて楽しいんだろうなって。

外薗:伯理が出てくるネームは楽しいです。

堀越:千鉱が登場するシーンは、設定的にもシリアスな展開になりがちですよね。伯理も設定は重たいですけど、それを感じさせない明るさがあるので、そのバランスがいいです。技も強いし(笑)。

――堀越先生が真似したいと思う、外薗先生のテクニックはなんでしょうか。

堀越:カメラワークとベタの使い方が頭抜けて上手いと思います。最近で一番「マジかよ」って思ったのが、座村が妖刀の抜刀を感知して現れたシーン。画面の手前に千鉱の手が見切れていて、その奥に座村が描かれてるんだけど、千鉱の顔は写ってないんですよ。千鉱と座村の因縁やその関係性を、表情を描かずに構図だけで表現していて、「天才じゃん」と思いました。絵だけで神話を伝える宗教画みたいで、舌を巻きましたね。構図でものを語ることができるっていうのは、すごいことだと思います。

――キャラクターのかっこよさを引き出すコツがあれば教えて下さい。

堀越:先ほど外薗さんに言っていただいた「読者を置き去りにしない描き方」がキャラクターの魅力を引き出すコツなのかもしれません。とあるキャラクターがかっこよく見得を切るシーンがあるとして、そのシーンが読者に「自分とは関係のないところで行われている」と感じさせないようにするのが重要だと思います。見得を切るシーンの前に、そのキャラクターがそこに至るまでの状況を丁寧に描いて、読者が共感しやすいようにするんです。

 見得を切った時にそのシーンが読者に響かないと無駄なページになっちゃうので、その前の段階から読者の感情に歩調を合わせる。読んでくれる人がちゃんと、そのセリフを自然と受け入れて感動したり、かっこいいと思えるように準備するのが大事かなと思います。そうすることで、そのシーンが「自分の眼の前で行われている」と感じられるようになるんです。

――『ヒロアカ』ではどのあたりから意識されたのでしょうか。

堀越:USJでデクがオールマイトを助けるために飛び出した時に、「大好きなオールマイトの個性を受け継ぎ、育ててもらっている自分だけがオールマイトの秘密を知っている」ってちゃんと描いてから飛び出してもらったんです。

■敵キャラ描く時の意識「モラルとかルールとか気にしなくていいから描きやすいよね」
――敵を描く時にお二人が意識していることはありますか。

外薗:敵のキャラクターには、「一歩間違えたら自分も敵側になっていたかもしれない」と思わせるポイントを入れるようにしています。千鉱と双城は、六平国重を同じように尊敬しながらもまったく違う人生を歩んでいます。伯理と京羅も、父と子という関係性が変わっていれば立場が逆転していたかもしれません。たとえ敵であったとしても、千鉱が共感できる部分を1つは作ろうと意識しています。

堀越:AFOや死柄木は主人公が掲げる目標に対して一番の障壁にならないといけないので、主人公が目指したものと真逆の方向に突き抜けているキャラクターとして作っています。主人公が困っている人を救いたいなら、AFOは全部を壊す、とか。とにかく主人公が一番困るやつを敵にするっていう感じですかね。それに対する主人公の回答は、描きながら考えていきました。おかげさまでAFOは描いてて楽しかったですし、いい敵になってくれたかなと思います。敵はモラルとかルールとか気にしなくていいから描きやすいよね。

外薗:楽しいです。間違ったこと言ってもいいですし。

――堀越先生から外薗先生に一言メッセージをお願いします。

堀越:もっとはっちゃけてください!今でも十分面白いんだけど、はっちゃけた外薗くんがもっと見たい。読者に伝わるように「こうしなきゃ」って考えるのも大事だけど、ちょっと基本からズレたものを描いても、もう大丈夫だと思います。映像化まで、いや43巻まで頑張ってください。(ヒロアカは全42巻)

外薗:ありがとうございます!
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