被災地から遠く離れた地域でも起こる”緊急買い”、ときに異常値をたたき出すことも…備蓄のハー…
サントリー食品インターナショナル ブランドマーケティング本部 課長 佐藤匡氏

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■32.4%が『災害や品薄などの情報に触れて、急いで買い物に出た経験がある』と回答
11月下旬、沖縄県の広範囲に発生した断水の影響により、県内各地のスーパーやコンビニでミネラルウォーターの品切れが相次いだ。そして青森県八戸市での地震。日本は災害の多い国だけに、備蓄の重要性は広く認識されているはず。にも関わらず、災害が発生するたびに被災地から遠く離れた地域でも"緊急買い"が起きるという。
今年7月に「防災のための備蓄調査」を行ったサントリーで、『サントリー天然水』を担当する佐藤匡さんは、「緊急買い行動の背景にあるのは、備蓄の有無以上に不安な気持ちなのかもしれません」と推察する。
「災害時には被災地から遠く離れた地域でも、しばしば"緊急買い"のような行動が起きるのです。この現象はSNSの普及以降に顕著になっています。災害時には真偽を問わず不安を煽る情報が拡散されがちですので、『次に被災するのは自分の住む地域かもしれない』『今のうちに買っておかなければ』といった心理が働くのかもしれません。弊社の調査では32.4%の方が『災害や品薄などのニュースやSNSに触れて、急いで買い物に出た経験がある』と回答しています」(佐藤さん/以下同)
緊急買いは食料品や衛生用品などさまざまな商材で起きるが、中でもミネラルウォーターは喉を潤す以上に生命維持に欠かせないライフライン。その購買行動は不安と連動するところが大きい。
もともと飲料水市場でトップシェアを誇る『サントリー天然水』だが、昨年8月に南海トラフ地震臨時情報が発表された際には、出荷システムがかつてない異常値を示すほど受注が急増したという。
「サントリー天然水はインフラの役割も果たす商品だと認識しています。そのため常日頃からあらゆる事態を想定した安定供給に努めていますが、それでも製造できる量には物理的な限界があります。また瞬発的なニーズの高まりは、物流に混乱を生じさせます。最も避けなければならないのは、切実に水を必要としているエリアにお届けできなくなることですが、昨年8月にはその一歩手前まで行きました。緊急対応を敷いてなんとか乗り切りましたが、今後も同じような事態が起きないよう、対策をしています」
■備蓄に対する高い理想、ハードルが顕在化、「完璧じゃないといけない」思い込み
同ブランドでは、これまでも防災週間などに防災備蓄の啓発キャンペーンを展開してきた。しかし昨年8月に起きた全国的な緊急買いを受けて、「浸透していないことを痛感した」と佐藤さん。同社の「防災のための備蓄調査」によると、意外な実態も浮かび上がってきたという。
「調査では73.1%が『日用品などを多めに買い置きする習慣がある』と回答していました。日常の買い物や消費の延長で多くの方が自然と備蓄を実践しているわけですね。ところがそれに反して『備蓄を十分にしている』と答えた人は、わずか2.9%しかいなかったのです」
こうしたギャップはなぜ生じたのか。生活者のインサイトをさらに深掘りして行き着いたのは、備蓄に対する心理的ハードルの高さだった。
「備蓄は大切だと考えるあまりに、高い理想を持ってしまう方は少なくないのかもしれません。『日常使いするものとは別の特別なもの(非常食など)をストックしていないと備蓄とは言えない』、『完璧に揃えないと備蓄の意味がない』といった思い込みから、『備蓄ができていない』と回答した方も多かったようです」
調査では多くの人が"無意識な備蓄"を実践していることがわかった。こうした日常の買い置きを「立派な備蓄」に第一歩と位置付けることで備蓄に対する心理的ハードルを下げ、無理のない備蓄行動を促すための提案を同社は今年から開始しているという。それが<ちょ備蓄>という考え方だ。
「<ちょ備蓄>という言葉には『日常の中でちょっとずつ、できることから始めませんか?』という思いを込めています。いつも使っているものをちょっと多めに買っておく』だけでも、『大事な備蓄行動の一歩になっているんですよ』とお伝えしたいですね。自分は備蓄ができているという自己効力感はもしもの時の冷静な行動や判断にも繋がり、ひいては自分や大切な家族、そして社会全体を守る大きな力にもなるはずです」
■”備蓄は決して特別でない”「日常とシームレスに繋がったアクションという空気を醸成していきたい」
飲料水はライフラインとして優先度の高いカテゴリーだが、同プロジェクトは飲料水のストックだけを呼びかけるのが目的ではない。フォーカスしているのはあくまで備蓄に対する心理的ハードルを下げることと、それによる生活者の行動変容を促すこと。そのためにも佐藤さんは「メーカーを超えて<ちょ備蓄>の輪を広げたい」と展望を語る。
「ゆくゆくはメーカー横断型プロジェクトとして展開していきたいと思っています。備蓄は決して特別ではない、日常とシームレスに繋がったアクションなんだという空気を醸成していきたいですね」
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