COP29の「気候資金」巡る三つの難題 続く先進国と途上国の対立
アゼルバイジャン・バクーでの国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)の交渉が大詰めを迎えている。最大の焦点は、途上国で地球温暖化対策を進めるための資金(気候資金)だ。資金を巡っては三つの大きな難題があり、先進国と途上国の対立が続く。
気候資金に関する現行目標は「2025年までに年1000億ドル(約15兆5000億円)」で、ドナー(出し手)は先進国だ。最初にこの金額に合意したのは09年のCOP15。22年になってようやく目標額に届いた。
第一の難題は金額だ。
「私たちが求めている数字は根拠なく出てきたものではない。我々はこの問題に責任はないが、経済には大きな損失が出ている」。シエラレオネの環境・気候変動対策相は19日の記者会見で語気を強め、「1兆3000億ドル」の資金拠出が必要だと訴えた。
独立した専門家グループが今月発表した試算によると、気候変動対策に必要とされる投資額は30年までに世界全体で年6兆3000億~6兆7000億ドル。このうち、中国を除く新興国・途上国で必要とされる額は年2兆3000億~2兆5000億ドルだという。
こうした試算などを根拠に、途上国側は現行目標より1桁多い「兆ドル」単位を要求している。先進国側は大幅な増額には慎重な姿勢を崩していない。
会期終盤に入り、先進国が受け入れられる規模として「公的資金で2000億~3000億ドル」という案が浮上している。ニュースサイト「ポリティコ欧州版」が、欧州連合(EU)の当局者の話として報じた。
二つ目は、資金のドナーだ。
途上国側は、現在進行する温暖化は先進国がこれまで大量に排出してきた温室効果ガスが原因だとして、先進国に拠出を求めている。1992年採択の気候変動枠組み条約も、資金拠出を義務付けているのは先進国だけだ。
一方、先進国は、ドナーに経済成長著しい中国などの新興国や中東の産油国を巻き込もうと模索している。15年採択のパリ協定では先進国以外にも自主的に拠出することを推奨しており、先進国側は「拠出する力のある国が資金を出すべきだ」と訴えている。
もう一つは、資金目標の「中身」だ。
民間資金を考慮したり、途上国だけでなく「世界全体での対策費」としたりすれば、目標の総額をふくらませることができる。ただし、途上国、特に低開発国にとっては無償資金こそが重要だ。
また、資金の振り分け方を明確にするかどうかも注目される。
気候資金は主に、温暖化の被害防止のための「適応策」と、温室効果ガスの排出を減らす「緩和策」に使われる。適応策は洪水などの災害に備えるインフラ整備や農作物の高温障害対策など「守り」の側面がある。緩和策は省エネ設備や再生可能エネルギーの導入支援など投資的側面が強く、緩和策の方が民間資金が集まりやすいとされる。
途上国側にとっては、人命や経済への悪影響を抑えることが喫緊の課題だ。そこで資金の使途の偏りを防ぐため、資金目標の総額だけでなく分野別目標が必要だとしている。温暖化の影響で実際に生じた「損失と被害(ロス&ダメージ)」に対処するための個別目標の設定を求める声もある。
19日に閉幕したブラジル・リオデジャネイロでの主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の首脳宣言には「新たな資金目標の成果を期待する。COP29議長国への支持を誓い、バクーにおける交渉の成功にコミット(関与)する」と盛り込まれた。
G20首脳宣言について、COP29の参加者の間では交渉を後押しすると歓迎する声の一方、踏み込み不足への不満も聞かれた。
COP29の会期は22日まで。環境NGOグリーンピース・ジャパンの小池宏隆シニア政策渉外担当は最終盤の交渉について「日本は他の先進国とともに、必要とされるニーズを満たす資金の枠組みを提案する責任がある」と話す。【バクー山口智】
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