時速194キロ暴走は危険運転 遺族「当然の判決」 量刑には疑問も
やっと市民感覚に近付いた――。時速194キロで車を走行させて死亡事故を起こした当時19歳の男性被告(23)に対し、危険運転の成立を認めた28日の大分地裁判決。「過失で起きた事故であるわけがない」と訴えてきた遺族らは「当然のことが認められた」とほっとした一方、懲役12年の求刑に対し懲役8年とした量刑には「抑止のためになるのか」と複雑な表情も見せた。
事故で死亡した小柳憲さん(当時50歳)の姉、長(おさ)文恵さん(58)は閉廷後に開いた記者会見で「危険運転は悪質な故意犯を罰するために作られた法律。当然なことが認められた」と評価した。
ただ、検察側が危険運転に該当すると主張した①「制御困難な高速度」②「妨害目的で接近(妨害運転)」の2点のうち、判決は②については高速度で信号交差点に進入していたとしても「(事故相手の車を)積極的に妨害する意図は認められない」として否定した。長さんは量刑が懲役8年になったことも含めて「頭が真っ白になった。抑止のために、これでよいのか」と疑問も投げかけた。
事故を巡っては、大分地検が2022年7月、時速194キロでも直線道路では制御困難だったとまでは言えないとして被告を自動車運転処罰法違反(過失致死)で在宅起訴した。疑問に感じた遺族らが約3万筆の署名を集めて提出した結果、地検が22年12月に同法違反(危険運転致死)に訴因変更する経緯をたどった。長さんは「判決は弟の事故だけでなく、今後の交通事故にも影響していく。大切な家族を失った遺族が、訴因変更のためにまた苦しい思いをすることがないようになってもらいたい」と語った。
会見には危険運転致死傷罪が創設されるきっかけとなった1999年の東名高速衝突事故で娘2人を失った遺族、井上郁美さん(56)らも出席した。同罪を巡っては、適用のハードルが高いと問題視する声が上がっており、「やっと裁判所が市民感覚に一歩近づいてくれた」と評価した。一方、判決が情状酌量して量刑を軽くしたことについて「20年以上たっても変わっていないと感じた」と不満ものぞかせた。
危険運転致死傷罪の要件の見直しを議論してきた法務省の有識者検討会は27日に、高速度運転と飲酒運転について数値基準の新設を提言する報告書を取りまとめ、今後は法改正に向けての議論が本格化する見通しだ。ただ、長さんは新たな基準で一律に判断される可能性を危惧する。「(基準)速度に満たない悪質なものも拾い上げられるよう慎重に判断してほしい」と求めた。
今回の裁判では、審理した裁判員も難しい判断を迫られた。裁判員のうち2人が判決後に記者会見し、危険運転の判断や量刑について迷った経緯などを明かした。40代男性は、危険運転を規定する同法の条文が曖昧と感じたと話し「(判断が)難しかった」と語った。50代男性は「加害、被害の両側の立場を思うと、判決の重みを感じる」と振り返った。【井土映美、李英浩、石井尚】
◇危険運転の罪に詳しい名古屋大大学院の古川伸彦教授(刑法)の話
制御困難な高速度による危険運転致死傷罪を認めた過去の判決は、カーブを曲がりきれなかった場合などに成立すると限定的に解釈してきた。今回の被告の車は進路を逸脱していないが、猛スピードの走行は危険運転に該当するとした大分地裁の結論は常識的であり、市民感覚にも沿った判決だ。妨害目的については被告に確定的認識がなかったとして認めなかったが、妨害相手が目に入らないほどの高速度で暴走した場合などについては議論の余地がある。
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