平和祈る日本一の大天狗 岐阜「こびの天狗山」 境内には変わり種も

2025/01/11 14:02 

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 見上げると、「てんぐさま」と目が合った。長い鼻、つり上がった目、大きな口。威厳のあるその顔つきは、怒っているようにも、やさしく見守っているようにも見える。

 岐阜県美濃加茂市にある神社「こびの天狗山(てんぐさん)」にそびえ立つ「大天狗像」。高さは12メートルで「日本一」ともいわれる。神さまの使いとしてまつる神社のシンボル的な存在として、圧倒的な迫力で参拝者らをひきつける。

 飛驒川からそそり立つ愛宕山に位置し、戦国時代には砦があったという。明治時代中ごろ、神道系の「荒薙あら(なぎ)教」が開山し、大天狗像は信者らの寄進によって1977年に建立された。

 「当時は高度経済成長期。慢心することなく、平和がずっと続くようにとの願いが込められています」と神職の水口彰さん(74)。なるほど、その表情は浮かれる人を戒めているようにも見える。

 神出鬼没、変幻自在とされる「てんぐさま」だが、副主管の戸田吉律さん(54)は「京都の鞍馬寺をはじめ、てんぐをまつった神社仏閣は全国にありますが、このあたりでは珍しいですね」。

 大天狗像のほかに、境内には15体のてんぐ像が点在している。鳥居の前で参拝者を出迎える一対の立像も、こま犬やキツネではなくてんぐだ。中には孫悟空をイメージした4等身姿でピースサインをする変わり種も。それぞれ少しずつ表情が異なり、てんぐの心中を想像しながら見て回り、お気に入りを見つけるのもおもしろい。

 古くから「お願い事の神さま」としても知られ、本堂の中と外には祈願成就によって返納された大量のてんぐの面が壁一面に掲げられている。その数なんと約3500体。ぎっしり隙間(すきま)なく並んでいるため、一見しただけではわからず、近づいて初めて面だとわかる、何ともシュールな光景だ。

 ある週末の午前、七五三衣装の親子や観光の高齢夫婦らが続々と参拝にやってきた。30年ぶりに訪れたという愛知県尾張旭市の女性(66)は「前回は闘病中の父と来ました。ちょうど一時退院中で、父に懇願されて初めて。なぜこの神社なのかと不思議に思っていました」と振り返る。

 祈願成就のご利益があるのを知ったのは、父親が他界したあと。「あの時、父はこの神社のことを知り、病気が治るよう最後の『お願い事』に来たのかもしれませんね」。30年前、一緒に見上げた大天狗像の前で、しんみり語った。【稲垣洋介】

 ◇こびの天狗山

 岐阜県美濃加茂市森山町3の5の57。午前9時~午後4時。年中無休。JR高山線古井駅から徒歩10分。駐車場30台。0574・26・1331。

毎日新聞

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