冠遺跡で4万2300年前の石器群出土 人類の日本到達時期に一石か

2025/05/25 10:28 

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 広島県廿日市市にある冠遺跡の発掘調査で出土した石器群が、放射性炭素(C14)年代測定で4万2300年前のものであることが判明した。これらの石器群には、中国などで出土した中期旧石器時代の石器と同じ特徴がある。国内では3万8000年前以降の後期旧石器時代の遺跡と石器が多数見つかっており、この時期に日本列島に人類が到来したという説が有力だが、今回の成果はこの通説の見直しにつながる可能性がある。

 筑波大で25日にあった日本考古学協会の研究発表会で、調査を担当した奈良文化財研究所の国武貞克主任研究員が報告した。

 冠遺跡は廿日市市北西部の冠山に近い標高約800メートルの場所にあり、これまで後期旧石器時代の特徴的な石器とされる大型石刃などが地表で採取されていた。国武氏らの調査チームは2023年9月と24年9月、地中の大型石刃を確認することなどを目的に発掘調査した。

 その結果、5カ所設けた調査用の溝(トレンチ)のうち東西約10メートル、南北約3メートルのトレンチで、地表から近い順にⅢ層、Ⅴ層上部、Ⅴ層中部、Ⅴ層下部、Ⅵ層の各層で多数の石器が出土。製作時に出たとみられる破片もあった。石器と同じ地層で見つかった炭化物を採取し、有機物の中にあったC14が時間経過とともに一定割合で減少する特徴を利用したC14年代測定を実施。Ⅲ層は2万8200年前、Ⅴ層上部は3万2200年前、Ⅴ層中部は3万6000年前、Ⅵ層は4万2300年前の石器だと確認した。Ⅴ層下部では測定できる炭化物が得られなかった。また、Ⅲ層とⅤ層上部の間で南九州で3万年前に起きた噴火の火山灰を確認した。

 Ⅲ層~Ⅴ層中部の石器には後期旧石器時代の特徴があった。一方、Ⅴ層下部とⅥ層では後期的な石器は見つからず、中国など東アジアの中期旧石器時代の遺跡から出土する先端をとがらせた尖頭器(せんとうき)や、幅の広い直線的な刃を持つクリーバーと呼ばれる石器などを発見した。こうした状況から国武氏らはⅤ層下部とⅥ層の石器は、中期旧石器時代の石器群の可能性があるとみている。

 00年に民間研究所の副理事長が、自ら埋めた石器を前期や中期の石器だと偽装した「旧石器発掘捏造(ねつぞう)事件」が発覚して以降、研究者の多くは日本の前期・中期旧石器時代の遺跡を認めることに慎重な姿勢を示している。事件発覚後も中期の石器発見が発表されているが、支持を集められていない。

 学界で広く認められている最古の旧石器時代の遺跡は、石器が層ごとにまとまって出土し、科学的な年代測定がされていることなどが評価された石の本遺跡(熊本市、3万7500年前)や井出丸山遺跡(静岡県沼津市、3万7400年前)などで、いずれも後期旧石器時代初頭と位置付けられている。国武氏は「中期旧石器時代を検討するために必要な石器と層位、年代値の確かな石器群を、旧石器の捏造発覚後、初めて明らかにできた」と意義づけている。

 日本列島に大陸から人類が渡ってきた年代は、考古学での成果を踏まえ、後期旧石器時代の始まりと同時期の約3万8000年前とする説が有力だが、冠遺跡の調査結果は、人類史を見直すきっかけになる可能性がある。

 国武氏の調査チームは今後、発掘調査の範囲を広げるとともに、年代の特定を厳密に行うため、地中の石英などの鉱物が自然界の放射線で被ばくした量を測定する「光ルミネッセンス年代測定」の実施や、火山ごとに異なる火山灰の分析を行うという。また、4万1000年前に地球で起きた地磁気の逆転の痕跡がどの層位で見つかるかを調べる。【高島博之】

毎日新聞

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