「栽培小豆」は日本が起源? ゲノム解析で中国伝来説を覆す研究成果

2025/06/15 11:00 

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 和菓子に欠かせない小豆の栽培が、中国よりも早く縄文時代の日本で始まったことをゲノム(全遺伝情報)の解析で明らかにしたと、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)などの研究グループが発表した。「栽培小豆」は大陸から稲作とともに伝来したとする従来の説を覆す研究成果で、科学誌「サイエンス」に掲載された。

 植物は、起源とされる場所でDNA配列の多様性が最も高くなるとされている。栽培小豆の場合、中国南部が最も多様で「中国起源説」が支持される理由となっていた。

 一方、種子は栽培化に伴い、大型化する傾向がある。近年の発掘調査では、日本の縄文時代後期ごろに相当する約6000~4000年前の中国や韓国の遺跡で見つかった小豆の種子に比べ、同じ時代の日本の方が大きいため「日本起源説」も提唱されていた。

 だが、種子のサイズは気候などの環境に左右されやすく、科学的な証明が不十分で議論が分かれていた。

 そこで研究グループは、農研機構に保管されているアジア各地から収集された栽培小豆と、その先祖である野生種のヤブツルアズキのゲノムを解析した。

 すると、母から子へと受け継がれる葉緑体のゲノムが、日本のヤブツルアズキと、中国や韓国の栽培小豆で同型だという結果が得られた。つまり、日本で野生のヤブツルアズキの栽培が始まり、それが大陸に渡ったことが示唆された。

 中国の栽培小豆の多様性が高いことも、日本から伝わった栽培小豆と現地のヤブツルアズキが交雑したためと説明でき、日本起源説を科学的に裏付けた。

 グループはさらに、小豆の栽培が始まった時期についても調べた。

 ヤブツルアズキは種皮が黒身を帯びていて小さく、水を通さないため発芽しにくい。これに対し、遺伝子変異で生まれた栽培小豆は、種皮が赤くて大きく、水を通しやすい特徴がある。自然界で生き残るには不利だが、栽培や調理がしやすく、人が好む色をしているため、人為的に選抜された可能性が示された。

 この変異遺伝子が出現する頻度を調べたところ、約1万世代前から増加したと推定された。小豆は発芽から結実して枯死し、次に発芽するまでのサイクルが1年のため、約1万年前に当たり、稲作が始まった約3000年前よりも早かったと考えられるという。

 研究グループの内藤健・農研機構上級研究員は「栽培小豆の『日本起源説』を支持する成果が得られた。日本で育てられている作物は基本的には大陸から入ってきたが、日本から大陸へ広がるという逆の動きをした作物が見つかったのは面白い」と話した。【菅沼舞】

毎日新聞

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