広島平和記念式典、出席すれど 核保有国に核の傘、協調は 原爆の日

2025/08/06 19:13 

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 被爆80年の夏、広島市長が平和記念式典で読み上げた平和宣言は、核抑止力に依存し、軍備増強が進む世界への危機感を示し、日本政府には国際社会の分断解消に主導的役割を求めた。開催方式を変更した式典に集まった国・地域は過去最多の120に上る。対話を促すメッセージは届いたのか。【根本佳奈、武市智菜実、宇城昇】

 過去最多の国と地域が参列した式典の来賓席には、核保有国や「核の傘」の下で核抑止に依存する国、戦火を交えて対立する国同士の姿もあった。核兵器廃絶と平和に向けた協調の一歩となることが期待されるが、各国の思惑は交錯する。

 イスラエルは前年に続いて出席し、ガザ地区への侵攻を受けるパレスチナ自治政府は初参列となった。駐日パレスチナ常駐総代表部のワリード・シアム大使は取材に対し、「加害者と被害者が一堂に会するのが残念でならない。全ての人々が広島の破壊に思いをはせるのが重要なのに、毎年参列しているイスラエルは何も学んでいないようだ」と批判した。

 一方、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使は「私たちは(イスラム組織)ハマスのテロに直面している」と主張。「喪失や再生の式典に立ち会えることを誇りに思う」と述べた。

 米国やイスラエルと対立するイランは2年連続の出席。ペイマン・セアダット駐日大使は取材に「原爆死没者や被爆者の苦しみを目の当たりにした。私たちは大量破壊兵器をなくす義務があり、国際社会は手を取り合って使用を防がないといけない」と強調した。その上で「核兵器の保有には反対するが、原子力の平和利用は別問題だ」と自国の核開発を正当化した。

 核保有5大国では、原爆を投下した米国のジョージ・グラス駐日大使が参列し、英仏も足並みをそろえた。英国のジュリア・ロングボトム駐日大使は「核兵器のない世界に向けて強い責任があるが、現在の国際状況では効果的な軍備管理をする必要がある」と述べるにとどまった。

 ロシアは欠席した。在日ロシア大使館はフェイスブックへの投稿で「(広島市は)イベントを通知するだけで、ロシア代表の出席を拒む市の立場は何ら変わっていない」などとして市の対応を批判した。同盟国のベラルーシは参列し、ロシアとは同調しなかった。

 中国は2008年の初参列以降、欠席が続いている。核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドは参列し、パキスタンは欠席で対応が分かれた。

 初参列した台湾の李逸洋駐日代表は式典後の記者会見で「台湾の人も原爆で大勢被爆しており、亡くなった方を追悼できた。参列したことで、台湾が国際社会でいかに平和を重視しているかを世界に示せたと思う」などと述べた。

 核廃絶に取り組む国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」のメリッサ・パーク事務局長も初めて参列。終了後、「式典に参列して、核兵器の廃絶が喫緊の課題だと理解できないわけがない。核保有国は核兵器禁止条約に参加し、核兵器をなくすという使命を心に留めるべきだ」と語った。

毎日新聞

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