「アリババ」「愛の乞食」上演 関西弁でよみがえる唐十郎の初期傑作

2025/09/16 19:59 

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 日本のアンダーグラウンド(アングラ)演劇をけん引してきた劇作家、唐十郎さんの戯曲「アリババ」と「愛の乞食(こじき)」が東京都世田谷区太子堂4の世田谷パブリックシアターで上演されている。演出家の金守珍(キム・スジン)さん(70)がひと味変わった脚色を試みた。両作品ともせりふはすべて関西弁で、いずれも「SUPER EIGHT」のメンバー、安田章大さんが出演。唐さんの初期の傑作が新たな形でよみがえった。

 「アリババ」(1966年初演)は幻の黒い馬を追い求める男と、それを赤い馬にすり替えようとする女、堕胎された赤ん坊を連れた老人が登場し、「子宮」という一つの世界で、堕胎された子どもの心の叫びがこだまする。一方、「愛の乞食」(70年同)は「少女仮面」「少女都市」に続く、唐さんの「満州もの」の3作目。深夜になるとキャバレーになる公衆便所を舞台に、かつて大陸を荒らし回った元海賊たちと、そこに現れた少女を中心に時空を超えた物語が展開する。

 唐さんが主宰していた劇団「状況劇場」を経て87年に劇団「新宿梁山泊」を結成した金さんは、悲哀とロマンが漂うこの2作を繰り返し演出してきた。今年は6、7月に東京・新宿の花園神社境内特設テントで連続公演し、安田さんが客演した。その際、兵庫県出身の安田さんから「唐さんが書いたせりふを一度、関西弁にして自分の感情をつくってから、また唐さんの言葉に戻る作業をしている」と聞いた金さんは「唐さんの世界を関西弁で表現してみよう」と思い立ち、今度の舞台で実現させた。

 「唐さんの作品は人生の不条理をユーモアで包んでいる。関西弁で演じる安田さんはそうした感覚をより自然に表現している」。公演にはそのほか、俳優の風間杜夫さん、壮一帆さん、伊東蒼さんらが出演している。

 唐さんは昨年5月に84歳で旅立った。「今年は戦後80年。日本は(31年の)満州事変を機に領土を拡大し、戦争への道を進んだ。唐さんはその『満州』を自身の一つのテーマに据えていた」と金さんは言い、「関西風の唐ワールドを感じてもらえれば」と話す。

 21日まで。詳細は主催するBunkamuraのホームページ。【明珍美紀】

毎日新聞

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