妊産婦の女性騎手に希望 地方競馬全国協会、免許更新の要件を緩和

2025/12/20 16:00 

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 全国15カ所の競馬場を統括する地方競馬全国協会(東京都港区)が、妊産婦となった騎手に限り、騎手免許更新に必要な体重と騎乗回数の2要件を不要としたことが毎日新聞の取材で分かった。12月1日付で全国の競馬組合に通知(適用は11月19日付)した。1962年の協会設立以来、妊産婦向けに要件が緩和されたのは初めて。

 これまでは女性騎手が妊娠・出産した場合、現実的に要件を満たすことが難しく、騎手をやめざるを得ない環境だったが、出産後の騎手継続に道が開けた。

 9月に妊娠を公表した高知競馬の濱尚美騎手(24)は「(妊娠して)騎手を続けるか続けないかという選択肢すらない状態だった。女性、妊婦に少しでも寄り添っていただけることはありがたい。地方競馬の世界も少し変化が起きた」と競馬組合を通じてコメントを寄せた。

 騎手免許有効期間は1年で、更新するには毎年試験を受ける必要がある。

 地方競馬の場合、筆記試験などに加え、体重は55・0キロ以内(ばんえいは75・0キロ以内)▽過去1年間で30回以上または2年間で60回以上の騎乗――が合格要件となっている。今回、妊娠中や出産1年以内の女性騎手を対象に、妊娠・出産がハードルとなる体重と騎乗回数の要件を課さないことにした。ただし、免許は更新できても、実際にレースに出るには騎手、鞍(くら)などの総重量制限など条件がある。

 協会によると、近年女性騎手が増加。国や地方自治体の少子化対策が進んでいることも受けて「女性騎手が安心して妊娠・出産し、スムーズに復帰できるよう、条件を見直すこととした」と説明している。

 全国の地方競馬で活躍する騎手275人のうち、女性騎手は12人(12月1日現在)。これまで国内で出産後に騎手として復帰したのは11月に引退した名古屋競馬の宮下瞳さん(48)ただ一人だ。宮下さんは妊娠を機に免許を返納。復帰するにあたり、1年半かけて体重を落としたり、勉強し直したりして免許を新規取得した。「結婚や妊娠を機にやめていく女性騎手を見てきた。免許の再取得はとても大変で、要件緩和により復帰しやすい環境になった」と歓迎する。

 ◇日本将棋連盟も「妊娠不戦敗規定」を削除

 妊娠・出産による女性のキャリア継続を巡っては、日本将棋連盟が16日に、女流タイトル戦での妊娠不戦敗規定を削除すると発表。妊娠・出産がキャリア継続の阻害理由とならないようにする動きが出ている。

 ジェンダー論などが専門の中京大スポーツ科学部の來田享子教授は、妊産婦向けの騎手免許更新要件緩和について「将棋の女流タイトル戦を巡るケースと同じで、今の時代に適合したものだ」と評価。「競技生活を続けるか引退するか二者択一というのが時代的に最も古い。自分らしく生きるのが難しい状況だったが、それがなくなるというのは、非常に前向きなことだ」と話した。

 国内の競馬団体は、地方競馬全国協会と日本中央競馬会(JRA)がある。JRA(騎手136人のうち女性騎手は6人)は騎手免許更新要件に体重や騎乗回数の規定がない。【酒井志帆】

毎日新聞

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