DV被害男性や性的少数者の保護所、来年2月開設へ 横浜のNPO
12月中旬、横浜駅にほど近いマンションの一室で、NPO法人「SHIP」(横浜市神奈川区)の星野慎二代表(65)が不動産資料と向き合っていた。全国的にも少ないドメスティックバイオレンス(DV)などを受けた男性や、性的少数者(LGBTQなど)の一時保護所を2月に開設するため、準備を進めている。
自身も性的少数者と公表している星野さんは、2007年にSHIPを設立。同じ立場の人の居場所づくりや交流事業に取り組んできた。
活動の中で、深刻な相談が寄せられることもある。その一つがDVの問題で、女性を自認する20代のトランスジェンダーの若者は、同居している親から「男らしくない」と言葉の暴力を受けていた。
だがSHIPもこの男性を支援するだけの経済的な余裕はなく、星野さんは「何もできなかった。性的少数者は家族と関係が悪化するケースが多く、経済的に自立できないと逃げる場所がない」と話す。
都道府県は困難女性支援法やDV防止法で「女性相談支援センター」の設置が義務づけられ、これらの施設でDV被害者らの一時保護をしている。しかし神奈川県によると、対象は文字通り「女性」に限られ、これまで男性を受け入れたケースはない。性的少数者の利用もないという。
さらに「男性は声を上げづらい」という問題もある。内閣府が23年に実施した調査では、配偶者からDV被害を受けたことがあると回答したのは、男女ともに25%前後と大差がなかった。一方で、どこかに相談したとの回答は女性が約60%に対し、男性は約40%にとどまった。
星野さんは、その背景に「男は強く、一家の大黒柱であるべきだ」という性規範が潜んでいると指摘する。
実際、自身の知人男性も性規範に縛られたのか、命を失ってしまった。水商売をして体調を悪くした後、生活保護の受給申請をしようとした当日に自殺したという。
制度があっても、性規範で利用をためらう現状に問題意識を持っていた星野さんらは、県の基金事業に応募。補助金を得て、DVや虐待などを受けた男性や性的少数者への総合支援に着手している。
11月には社会福祉士や臨床心理士に無料で相談できる専用窓口を開設。電話や対面で相談を受け付け始めた。今は被害者の自立を支援するために、一時保護所を作ろうと、物件探しなどに奔走しているところだ。
「性別や性自認に関わりなく、誰もが自分らしく安心して暮らせる社会になってほしい」。星野さんは、周囲で起きたような不幸が二度と起きないことを願う。
そのための取り組みは、もうすぐ形になろうとしている。【蓬田正志】
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