長野のイチオシ風景 安曇野の清流、黒沢映画にも ワサビ料理も人気

2025/12/30 15:00 

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 まもなく2025年も終わり。最大9連休となる年末年始の休暇、いかがお過ごしでしょうか。全国各地の「イチオシスポット」を紹介した記事を厳選してお届けします。家族や旧友、旅先の人たちとの話題にチェックしてみてください。ふるさとの意外な一面も見えてくるかもしれません。

 ◇アルプスのふもと、大王わさび農場

 1990年に公開された黒沢明監督の映画「夢」。8話からなるオムニバス作品だが、その最終話「水車のある村」のロケ地となったのが長野県安曇野市だ。現地を訪ねると、「日本の原風景」とも評されるノスタルジックな風景が、時間を忘れさせてくれた。

 舞台となったのは、北アルプスの懐に抱かれた安曇野市穂高地区の「大王わさび農場」。この一帯は地中に染みこんだ北アルプスの雪解け水が湧き出す。ワサビ畑の隣を流れる蓼川(たでがわ)沿いには撮影に使われた3棟の水車小屋が現存している。

 「黒沢監督がこのあたりをすごく気に入ってくれたと伝え聞いています」と語るのは、大王わさび農場の高橋香織・観光係長だ。残雪の北アルプス。澄んだ空気。透明度が高い清流。ゆっくりと回る水車。すべてがあいまって、夢のような別世界を現出させている。

 実は水車はもともとあったものではなく、セットとして設置された。撮影後に取り壊される予定だったというが、「観光名所にしたい」という地域の意向を受け入れ、大王わさび農場がその一部を受け継いだ。

 2024年の来場者数は約80万人。3割がフランス、カナダ、オーストラリアなど海外からの観光客だった。美しい景観とともに、日本最大級のワサビ畑で取れたワサビを使った料理や「わさびソフトクリーム」も人気。本物のワサビは香りが格別でほのかな甘みもある。「本物のワサビは、こんなに違うんだね」と驚く海外の人も少なくないという。

 畑に使われている湧き水は水温が年間を通してほぼ13~15度で一定している。ミネラル豊富で、ワサビ栽培に最適。まさに北アルプスの恵みだ。

 「水車のある村」の中で笠智衆演じる老人が村を訪れた旅人に対し、こんなことを説く場面がある。「人間に一番大切なのはいい空気やきれいな水……汚された空気や水は、人間の心まで汚してしまう」。安曇野の清流には、確かに見る者の心を清めてくれる何かがあるようだ。【長野支局長・高橋秀明、写真も】

毎日新聞

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