<令和まつり考>心を揺さぶる新しい祭りの形とは 民俗学者・赤坂憲雄さんに聞く
◇村の絆守る祭り、危機の時こそ作動
◇民俗学者・赤坂憲雄さん
――どのようにして、祭りは始まったのでしょうか。
◆その原風景はやはり、「神々との交歓」にあります。「聖なるものとの出会い」という瞬間を必ず、祭りは持っています。神々を迎えて、その言葉を人間たちが聞くことが核になる。人間が神に出会った初原の物語を祭りとして、繰り返している。だから、祭りは神話と背中合わせになっています。原初の出来事の再現という側面が、祭りにはあります。
――確かに神事のイメージが強いですね。
◆古代には政治と祭事は「まつりごと」であり、分かちがたいものでした。神の言葉を伝えるシャーマン、宗教者が首長となっていました。そして、一族の起源を語る神話を祭りとして演出し、生きたパフォーマンスとして伝承していきます。
8世紀に編さんされた常陸国(現在の茨城県地域)の風土記には、蛇神(谷=ヤツの神)と人間の土地争いが描かれています。一族の長が神を山に追いやるのですが、境界に杖(つえ)を立て、それが神を祭る祠(ほこら)や社=ヤシロになる。そうして人の耕す田が確保される。それから、族長は神の祝=ハフリとなり、神の祟(たた)りを避け、一族のアイデンティティーを保つために祭りを続ける。神楽の起源です。
――他にも祭りの目的はあるのでしょうか。
◆実際には、祭りは極めて多様です。沖縄などでは仮面をかぶり異装をこらした来訪神を歓待し、無病息災や五穀豊穣(ほうじょう)を祈ります。一方で宮城、秋田などの七夕や青森のねぶたは、一年の災厄、病気などの穢(けが)れを笹(ささ)竹や山車につけて外に追いやり、安らぎを得る。村や町に堆積する災厄が祓(はら)われ、清められるのです。京都の祇園祭なども一緒ですね。
山車や神輿(みこし)は巡行します。福島や和歌山などで神輿が海に入るのは、清めのための潮垢離(ごり)です。
――ご先祖様への感謝もあります。
◆岩手の鹿踊(ししおどり)には、死者供養の役割があります。近世に頻発した飢饉(ききん)、災害の時に、この芸能は必要とされました。死者を鎮魂し、生き残った人たちを精神的に支えたのです。祭りを繰り返すことで、村の絆を守り、共同の記憶をつないでいく。だから、続けずにはいられない。危機の時こそ、それが文化の仕掛けとして作動する。東日本大震災の後に、祭りの自粛が広がるのではと危惧したのですが、杞憂(きゆう)でした。
――現代ではあらゆるイベントが「祭り」となっています。
◆たとえば新潟の「大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ」。棚田や廃校などに現代アートを展示したり、パフォーマンスを演じたりしている。埋もれていた地域の生業、風景、歴史などが掘り起こされ、新たな命が吹き込まれる。アートが地域とつながることで、もう一つの祭りの系譜が誕生した。「聖なるものとの出会い」の場として眺めるならば、アートと祭りはとても親和的なのです。
――ただ、成功ばかりではありません。
◆単に商業的に仕掛けられたフェスティバルは、長続きしないし、記憶にも残らない。精神の深みに降り立って、日常を超えた出会いをもたらし、土地に新しい命を吹き込むことがなければ、祭りではありません。
芸術家の岡本太郎は1970年の大阪万博を祭りの時空として、演出しようとしました。その意図は挫折しましたが、べらぼうなもの、意味のわからぬ「太陽の塔」だけは残りました。あそこは「聖なるものとの出会い」ができる不思議な場所です。2025年の大阪万博の場合は、何が残るでしょうか。
――少子高齢化と過疎化で、伝統的な祭りの存続は難しくなっています。
◆岩手の鹿踊の踊り手はかつて、旧家の長男でした。それが次男、三男に開放され、それでも足りずに女性を加えた。さらに村の外から、よそ者も受け入れるようになった。富川岳さん(作家、岩手県遠野市に移住)は、よそ者の踊り手の一人ですが、踊りを「シシになる」という言葉で捉えている。踊り手はある種の憑依(ひょうい)状態の中で、人と獣の境界を超える。この感性は伝統の外からもたらされたものです。
家父長制的な継承は、もはや限界です。現代アートや音楽などとのコラボレーションが、心を揺さぶられるような新しい祭りの風景を産み落としています。祭りは「異形異類」の人が群れつどい、神や鬼と交歓する場であったことを思いながら、明日の祭りの形を探していきたいですね。【聞き手・高橋昌紀】
◇赤坂憲雄(あかさか・のりお)さん
1953年、東京都生まれ、東大文学部卒。「東北学」を提唱し、学習院大教授、福島県立博物館館長、遠野文化研究センター所長などを務めた。近著に「いくつもの武蔵野へ 郊外の記憶と物語」(岩波書店)。
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