<eye>窯に炎、復興へのろし 珠洲焼作家、意欲の炎は消えず 能登地震2年
3度の地震で被災した窯に再び宿った炎。煙突から上る煙はさながら「復興へののろし」だった。
能登半島の先端、石川県珠洲市で作られる「珠洲焼」はその歴史から「幻の古陶」と呼ばれている。釉薬(ゆうやく)を使わずに高温で焼き上げ、窯を密閉し酸欠状態にすることで生まれる灰黒色が特徴。平安時代末期から室町時代中期にかけ生産されていたが一度途絶え、1970年代後半に再興した。
2024年元日の最大震度7の能登半島地震で多くの珠洲焼作家が被災した。作家団体「創炎会」の会長、篠原敬(たかし)さん(65)もその一人だ。
珠洲市郊外にある篠原さんの窯「游戯(ゆげ)窯」が地震の被害に見舞われたのは今回が初めてではない。22年6月の地震(最大震度6弱)では一部損壊した。修復して焼き物作りを再開したが、23年5月の地震(同6強)で再び被害を受け全壊。ボランティアの手を借りて同年10月に再建した。24年1月下旬に初窯を予定していたが、同年元日の地震で使うことなく再び全壊した。同年9月の奥能登豪雨では裏山が崩れ、土砂が流れ込む被害もあった。
度重なる災害を前に、篠原さんは「自然には太刀打ちできない」と感じながらも、創作意欲の炎は消えなかった。何度も支えてくれた多くの仲間がいたからだ。「やればなんとかなる」という思いがあった。
25年5月から始まった窯の再建には全国から100人を超えるボランティアが駆けつけ、レンガ積みなどに携わった。「珠洲焼全体の再建や復興を願った思いが詰まった窯です」と語る。
地震から2年を目前に控えた同年12月25日、念願の初窯で自身の作品とボランティアらの作品約400点を配置した窯に火をともした。
火入れから5日ほど、作業は休みなく続く。温度計を見ず、窯の様子だけを感じ取りながらアカマツのまきをくべていく篠原さんの姿はまさに「対話」そのもの。「師匠は『窯が欲しがるだけくべればいいんだよ』って言っていた」
珠洲の復興は、建物や道路の修復だけでなく文化も含まれると考える。その一つが珠洲焼で、「珠洲の精神文化が詰まっている」と言う。再建した窯は若い世代に貸し出すつもりだ。「私の窯というよりも、これからの珠洲焼をつなげていく窯にしたい」と思いを巡らせている。
年が明けた8日、窯を封じていたレンガが外され、灰黒色に輝く作品が取り出された。「始まりだな」と作業をしながら感じた篠原さん。苦難の時代を乗り越えた窯は未来への一歩を踏み出した。【岩本一希】
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