解体検討も一転 近代建築の感性伝え続ける「旧安川邸」 北九州

2026/05/05 07:15 

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 大型連休はもちろん、週末にちょっと出かけたい九州・山口の博物館や美術館、文化施設を紹介します。

 ◇将棋竜王戦の会場にも

 野趣あふれる樹林に囲まれた「夜宮公園」(北九州市戸畑区)の一角で、静かにたたずむ邸宅がある。安川電機の創立発起人で、近代産業をけん引した官営八幡製鉄所の誘致に尽力した安川敬一郎(1849~1934年)が、つかの間の安らぎを過ごした場所だ。

 市指定有形文化財でもある邸宅は、1912(明治45)年に建設された。敷地内には大正末期から昭和初期の建物群もあり、時代ごとの意匠や感性が重なり合う空間構成となっている。

 受け付けを抜けて右手に建つ洋館は、27(昭和2)年の建築。正面を洋風、背面を和風とする木造2階建てで、敬一郎が晩年を過ごした場所だ。内部は非公開だが、外観そのものが雄弁な語り部として近代建築の感性を伝え続けている。

 一帯は再整備を経て2022年春から一般公開されているが、その5、6年前には老朽化を理由に洋館の解体が検討された時期もあった。専門家から、日清・日露戦争後に高まった自国文化再評価の潮流を背景に「和洋双方に目を配った、当時の思想を読み取ることができる」とする指摘が寄せられ、建築史的価値の高さから保存に転じた経緯がある。

 一方、邸宅は23年10月に将棋の竜王戦の会場にもなり、最近は近代アートを取り入れた催事にも注力。世代を超えた交流の場として定着しつつある。

 邸内にある和カフェでは、敬一郎が愛した煎茶を中心に、厳選した茶葉を用いたメニューも人気。新緑がまぶしいこの季節に“隠れ家”空間から庭園や歴史的建築を眺めながら味わう一服は、訪れた人に余韻を残す。

 「大座敷は製鉄所誘致の初会合が開かれた場所。安川家や邸宅の歴史を知ってもらう仕組み作りを進めていきたい」と久和尚子館長。周囲は歴史的な建造物も隣接しており、歴史に身を委ねるもよし、四季折々の自然を満喫するもよし。時代を超えて開かれたこの場所には、今も穏やかな時間が流れている。【橋本勝利】

 ◇旧安川邸

 北九州市戸畑区一枝1の4の23。西鉄バス「明治学園前」から徒歩5分。午前9時~午後5時。火曜、年末年始は休館。入館料は一般260円、小中学生130円。電話(093・482・6033)。

毎日新聞

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