日本初、ロボット手術可能な動物病院が開院 獣医師の環境改善も期待

2025/11/01 10:00 

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 ペット保険大手・アニコムホールディングス傘下のアニコム先進医療研究所(東京都新宿区)は10月1日、動物向けのロボット手術などを行う高度医療施設「JARVISどうぶつ医療センター Tokyo」(東京都港区)を開院した。アニコムホールディングスによると、手術支援ロボットを導入した動物病院は日本初という。

 アニコムグループが高度医療施設の開院に踏み切った背景には、ペットの長寿化や医療ニーズの多様化のほか、医療界全体に対する危機感がある。同月4日に開かれたメディア向け内覧会で、アニコムホールディングスの小森伸昭社長は人間・動物を問わず高度医療が高額化していることに触れ「保険も医療も安心を提供することが務めだが、昨今セーフティーネットとなる医療の商業化が進んでいる」と懸念を示した。

 「高度な医療を安価に正確に提供する必要がある」として、今回導入したのが、国立大学発ベンチャー企業のリバーフィールド(同区)が開発した手術支援ロボット「Saroa(サロア)」だ。

 ロボット手術は執刀医が手術台から離れたところでモニターを見ながらアームを操作して器具を動かす。開腹手術と比べて傷が小さく済むため、患者の負担軽減になる。サロアは器具が臓器などに触れたときの力を執刀医の手元に伝えることができる「力覚りき(かく)フィードバック」機能が搭載されているのが最大の特徴。つかんだり引っ張ったりする感覚がわかるので、より直感的に力加減を調節することができる。人間向けの手術支援ロボットとして厚生労働省の承認を受けているサロアは、動物医療用として農林水産省の承認を得ていないが、獣医師の裁量に基づいて使用されている。

 アニコムグループは、ロボットやAI(人工知能)の活用により地域格差の解消につながると考えている。特に地方では、病院も獣医師も足りておらず、高度医療へのアクセス自体が難しい。将来的にロボットによる遠隔手術が可能になれば、患者は交通費をかけて高度医療施設まで長距離移動する必要がなくなる。

 また、獣医師の教育環境改善にも期待を寄せる。これまでは、高い技能を持つ医師の手術を外から見ても、力加減まではわからなかった。だが、将来的にロボットとAIを活用すれば力加減を含むデータを記憶し、蓄積できる可能性もある。高度な手術ができる獣医師が増えれば手術費の抑制にもつながる。「いずれは同じ視野、同じ力感覚を再現して手術技能の向上に役立てることも可能ではないか。最先端医療を勉強したい若い学生や獣医師のモチベーションになるような病院にしていきたい」と同研究所の堀江亮社長は説明する。

 新病院は循環器や呼吸器、整形外科など幅広い診療部門を備え、地域の動物病院からの紹介で専門的な検査や2次診療を行う。手術室を含む院内設備はほとんどがガラス張りで外から見えるようになっており、飼い主も手術の様子を見守ることができる。11月からは夜間の救急受け入れも始め“安心安全”なペット環境の構築に余念がない。

 小森社長は「ペット医療から医療全体のさまざまな課題を解決できる、という思いをこの病院に込めている。保険とロボット医療とAIの『見える化』によって、全世界の医療をリードしていきたい」と意気込む。【北村栞】

毎日新聞

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