免許返納後の“足”はどうする? 悩む高齢者と家族の選択は…日本初のシニアカーを作ったスズキ…
2025年に40周年を迎えたスズキ『セニアカー』/最新のET4DB(赤)(画像提供:スズキ)

【画像】今とはずいぶん違う!1985年に発売された初代セニアカー
■70歳以上の運転免許保有者は16%超、返納後の“足”に悩む高齢者と家族
総務省統計局の推計(2025年9月15日時点)によると、日本の65歳以上の人口は3,619万人。国民の約3割が高齢者という時代を迎え、70歳以上の運転免許保有者数も全体の16.6%を占めるまでになった(内閣府HPより)。
一方で、高齢ドライバーによる交通事故が社会問題化し、運転免許返納を選ぶ人も増えた。ただ実際は、その後の交通インフラ不足に悩む高齢者やその家族は少なくない。
そんな中、免許返納後の“足”として活用されているのが、ハンドル形電動車いす、いわゆるシニアカーだ。日本にシニアカーが誕生したのは1985年、スズキの『セニアカー』が最初。2025年には発売40周年を迎えたこの製品の成り立ちについて、同社の日本営業本部・電動車いす課の疋田智之さんはこう語る。
「当初、開発を始めたのは高齢者向けの乗り物ではなく、障がいをお持ちの方向けの電動車いすでした。しかし、将来さらに高齢化が進むことは容易に予測できた。障がいのある方だけでなく、お年寄りにも気軽かつ安全に乗っていただける乗り物を提供しようということで、より簡単に操作できる進化版の開発を始めました。ちなみに、なぜシニアカーではなく『セニアカー』という名前にしたのかの詳細はわかりません(笑)」
スズキといえば、軽自動車やバイクのイメージが強いが、なぜこの分野に踏み込んだのか。そこには、乗り物づくりで培った技術への自負があるという。
「そのころから車はもちろん、船や雪上車などのエンジンや、発電機なども研究開発していました。『セニアカー』も、それらを担当する部門で開発をスタートしたんです。スズキには、2輪車・4輪車で蓄積された技術力、市場でのサービス対応力があります。それを福祉に役立てることは、我々の社会的使命だという考えがありました」
こうして誕生した『セニアカー』は、発売10年で5万台を販売。そこから着実に需要は増え続け、2025年には累計32万台にまで到達。安定した普及の背景には、2000年の介護保険制度の開始という大きな転機もあった。
「電動車いすが介護保険の給付対象となり、少ない予算でレンタルできるようになりました。これによって高齢者は外に出やすくなり、また年々バリアフリー化も進んで、気軽に乗れる乗り物として受け入れられるようになったんです」
一方で、社会的な出来事が運転免許返納の波を作ることもあった。2019年に発生した凄惨な交通事故は、その最たるものだ。
「2019年の池袋の暴走事故の後、高齢者の運転免許返納者数が一気に跳ね上がりました。ご自身の運転に不安を持ったり、家族に車の運転をやめるように促されたりした方も多いと聞いています」
ただ、免許を返納したものの、日々の買い物すら困難になる地域が多いのも事実。人口が減り高齢化が進む中で、コミュニティバスや移動スーパーすら撤退してしまい、買い物難民になってしまう人が増加。生活の維持という切実な問題に、『セニアカー』は寄り添ってきたという。
「シニアカーの購入に補助金を設定している自治体も多く、免許返納後の移動手段として『セニアカー』を選ぶ方も増えました。やはり、お買い物の用途は非常に多く、『もっと荷物が積めるようにしてほしい』という声はありますね。最新モデルでは、ご要望に応えてフロントバスケットも大きくしています」
■事故多発のマイクロモビリティ同様、ECや輸入業者からも購入可能だが…「買った後に困ることも」
現在では、スズキのみならず多くのメーカーがシニアカー市場に参入。海外製品をネットで購入することも可能になった。だが、やはり気になるのは安全面である。最近では、キックボード型や自転車型の小型マイクロモビリティの事故が多発していることもある。形は違えど、高齢者にとって危険はないのだろうか。
「ECサイトから購入できるメーカー、海外製品を輸入して販売する業者などもありますが、製品としての質や保証、アフターサービスを考えると、買った後に困ることも出てくるのではないかという懸念はありますね。『セニアカー』の場合は、性能や耐久性、品質は2輪車・4輪車と同等の基準。そうした会社ならではの信頼をみなさん実感してくださっています」
『セニアカー』のスピードは時速6km以下に制限。歩行者として歩道を走り、4つのタイヤで接地するため、転倒のリスクはほとんどないという。
「『セニアカー』には超音波で前方の障害物を検知し、自動で減速する機能が搭載されている。これは四輪車に搭載されている予防安全技術を応用したもので、自動車メーカーとしての知見を生かしています。どの機能もそうですが、高齢者の乗り物なので気軽に簡単に操作できることが大前提。新機能をどんどん付ければいいわけではないので、その点は気を付けて開発しています」
こうしたハード面に加え、同社がもっともこだわっているのがソフト面のサポートだ。
「販売するときは、“対面販売”を基本としています。担当者がご自宅へ伺い、一緒に近所を走ってレクチャーするんです。試乗しながら危ない場所を一緒に確認し、そういった場所の通行は避けるようにアドバイスします。手間はかかりますが、販売手法も含めて安全面に配慮するのがこだわり。これも、全国に広がる自動車の販売網があるからこそできることではないでしょうか」
たしかに、CMでもよく耳にする「スズキのお店」は全国に数多く存在する。何かあったら近場のお店に相談できるとなれば、高齢者にとってこれほど心強いことはない。このようなきめ細やかな対応はどのメーカーにもできることではないだろうし、より安心安全が求められる商品だからこそ“手軽に買える”ことだけを優先すべきではないのだ。
「電動車いすには法律で定められた点検はないのですが、スズキでは1年に1回、点検をしていただけるよう、8年間に渡ってハガキで案内しています。点検の際にはご利用者様の運転能力や使い方のチェックもするので、認知機能の低下などで利用をお控えいただくよう提案するケースもありますが、安全のためには必要なことだと思っています」
とはいえ、どんなに安全に乗っていたとしても、全国には歩道のない道路も多い。その場合、車を運転する側からは、どうしても「邪魔だ、危ない」という声も上がる。
「道路交通法では、『セニアカー』は歩行者扱い。利用する方は当然歩行者としての交通ルールやマナーを守ることが大切ですが、周囲の方も『邪魔だ』と言わず、理解して優しく見守っていただけたら。業界としても、啓発していかねばならないことだと考えています」
■「団塊の世代が車の運転をやめるとき」に向けて、幅広い選択肢を作る
2025年の『ジャパンモビリティショー』では、『セニアカー』の技術をベースにした『スズライド2』も展示した。時速12km程度で走る自転車相当の乗り物で、16歳になれば運転免許がなくても乗ることが可能だ。この開発の意図とは?
「『セニアカー』を初めて購入される方の平均年齢は、80台半ば。『スズライド2』はもう少し若い方をターゲットにした乗り物です。『セニアカー』はどうしても、お年寄りの乗り物と感じられてしまうことが多い。今後、団塊の世代が後期高齢者となって車の運転をやめるとき、需要は膨らむとは思いますが、その世代の嗜好は今とは違うでしょう。デザインを重視する方、また家族でのシェアなども含めて、様々な使い道で楽しんでいただけるように開発を進めました」
現在の高齢者はもちろん、高齢の親を持つ世代も、いずれ直面する移動の問題。今は若い人たちも、数十年後は車の免許を返納して不便を感じざるを得なくなる。いつか来るそのとき、選択肢は広く、また安心安全を選びたい。
「スズキには、年齢を問わずすべてのお客様の移動の自由を支えていきたい、という強い思いがあります。そのためにも積極的に出張試乗を進めたいと思っています。ぜひ『セニアカー』で行動範囲を広げていってほしいなと思います」
(文:川上きくえ)
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