中国、民族統制の新法審議入り 反「団結」で厳罰 同化政策色濃く

2025/09/20 06:30 

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 中国で民族政策の統制を強化する新たな法案の審議が始まった。国会に相当する全国人民代表大会(全人代)常務委員会に提案され、全文が公式サイトで公表された。「民族の団結」に反する言動を厳罰に処すことを明記し、標準語教育の徹底や「中華文化」に基づく建築デザインや地名を奨励するなど、同化政策を色濃く反映した内容となっている。

 法案の名称は「民族団結進歩促進法」。市民からの意見公募を経て、今後複数回の審議と修正を重ねたうえで成立する見通しだ。法案は「中華民族は多元一体の大家庭」と位置づけ、「共産党は各民族の団結や繁栄を実現した」と党の功績を強調している。

 条文では、当局が「民族の団結を破壊する」と判断した幅広い言動を処罰できるとし、国民に違法行為の通報を呼びかけた。ただ、その線引きはあいまいで、恣意(しい)的な運用に対する懸念を招く可能性がある。国外の組織や個人の法的責任を追及できるという規定も設けた。

 習近平国家主席が掲げる「中華民族共同体意識」を前面に打ち出し、民族固有の文化よりも党の下での一体性を優先させているのが大きな特徴だ。「各レベルの政府は、公共設備や建築デザイン、地名などに中華文化の象徴を反映させるよう奨励・支持しなければならない」と定めている。

 言語政策でも、真っ先に標準語の使用とその教育の重要性を強調し、その後に民族固有の言語を使い、学ぶ権利に言及する構成となっている。「共同体意識」の確立に資する国家統一の学校教材を使用することが義務づけられた。

 こうした内容は、現実の政策を追認するものだ。近年、各地でイスラム教のモスクから中東風のドームや尖塔(せんとう)が撤去され、中華文化を意識した改修が相次ぐ。新疆ウイグル自治区では、少数民族ウイグル族の文化や歴史に由来する地名が「紅旗村」「前進村」などに改められている。

 5年前に内モンゴル自治区で民族学校の標準語教育を強化する方針が示された際、保護者や教師らの抗議運動が起きたが当局に抑え込まれた。

 中国では漢族が人口の9割を占める一方、55の少数民族が公認され、各地に民族学校が存在してきた。しかし、チベット自治区や新疆ウイグル自治区など少数民族の多い地域では独立運動の火種がくすぶり、習指導部は「国家の安全」を名目に圧力を強めてきた。

 国連人権高等弁務官事務所が新疆ウイグル自治区で「深刻な人権侵害が行われてきた」とする報告書を発表するなど、国際社会からは懸念の声が上がっている。【北京・河津啓介】

毎日新聞

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