スパイ網築こうと? ハンガリー首相に疑惑 情報共有巡り揺れる欧州

2025/11/01 09:11 

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 欧州が米国や各国間での機密情報の共有を巡り揺れている。オランダの情報当局は、ロシア寄りの姿勢をみせるトランプ米政権との共有を厳格化する意向を表明した。欧州連合(EU)では、ロシアのプーチン大統領に近いハンガリーのオルバン首相がEU組織内にスパイ網を築こうとしていた疑惑が浮上。EUの行政執行機関である欧州委員会が調査に乗り出す事態になっている。

 オランダの国内情報機関AIVDトップのアッカーブーム局長らは10月18日掲載の現地紙へのインタビューでトランプ政権への不信感をあらわにした。オランダが提供した機密情報を米政府がロシア支援や人権侵害につながる用途に使用することへの懸念を表明し、今後は情報ごとに提供の適否を厳密にチェックする意向を示した。

 オランダの情報機関はこれまで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領空内に侵入したロシアの無人航空機(ドローン)や対露制裁を骨抜きにする闇タンカー群「影の船団」などに関する有力な機密情報を米国や欧州の同盟国に提供してきた。

 だがトランプ米大統領がウクライナのゼレンスキー大統領との17日の首脳会談で、ロシアの停戦条件を受け入れるよう圧力をかけるなど、ロシア寄りの姿勢が目立つことから警戒を強めた。オランダ政府は今後、フランスやドイツ、英国、ポーランドなど欧州の同盟国との連携を強化する方針を示している。

 一方で、欧州各国間でも信頼関係に亀裂が生じかねない状況になっている。

 10月9日、独誌シュピーゲルやハンガリーの独立系メディアなどが、ハンガリー情報機関のEU内での諜報(ちょうほう)活動についての調査報道記事を掲載した。ハンガリーの在EU大使館に所属する外交官を装った情報機関の職員が2015~17年、EUの各機関内に人脈を築き、情報収集していたとする内容で、欧州委員会が確認調査を開始している。

 東欧諸国には冷戦時代からのロシアのスパイ網が残っているとの専門家の指摘もあり、オルバン氏がプーチン氏と良好な関係を築くハンガリーへの他国の不信感は根強い。

 ただ、ウクライナ侵攻を継続するロシアへの効果的な対処には米国、欧州、ウクライナ間での機密情報の共有が欠かせない。

 多数の人工衛星などを使った米国の情報収集能力は群を抜いている。トランプ政権が今年3月、ロシアの侵攻を受けるウクライナとの機密情報の共有を一時停止した時には、前線のウクライナ軍の敵軍探知能力などに影響が出たとみられている。また、ウクライナの戦場から得られる情報は、兵器や戦術改良のための重要なデータだ。そのため、NATOはウクライナとの機密情報の共有を進めている。

 ロシアの軍備増強に懸念が深まり、フィンランドのニーニスト前大統領が24年に情報収集能力を強化しようと、EU内に米中央情報局(CIA)と同様の情報機関の創設を求める提言書を欧州委員会に提出したことがある。しかし、加盟国間での信頼関係強化にはほど遠いのが現状で、EU版CIA創設までには難題が山積している。【ブリュッセル宮川裕章】

毎日新聞

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