「仲裁者」ハメネイ師を失ったイラン 戦闘の損害額は43兆円に
米国とイランは14日、戦闘を終結させることで合意し、2月末に始まった戦闘は大きな転換点を迎えた。今後はイランの核開発などを巡る交渉やホルムズ海峡の開放が順調に進むのかが焦点となる。合意に至った背景や展望を探った。
◇体制存続は最大の「勝利」
「敵は全ての目標において敗北を喫し、イランは戦争で素晴らしい勝利を収めた」。イランのガリババディ外務次官は米側との合意成立を受けて「勝利」を宣言し、覚書が「軍事的成果」であるとアピールした。
イランにとって、今回の戦闘でイスラム体制が存続したことは最大の「勝利」と言える。イランは開戦初日、体制転覆を狙う米イスラエルの軍事作戦で、前最高指導者アリ・ハメネイ師が殺害された。
だが、表立った混乱は起きず、戦時下の3月上旬にはハメネイ師の次男モジタバ師を後継者に選出。体制は維持され、米イスラエルの当初の思惑は崩れ去った。
覚書の詳しい内容は明らかではないが、今後の交渉を通じて凍結資産や経済制裁の解除が実現すれば、イランにとっては大きな成果だ。国内の経済情勢が改善すれば、体制の基盤固めにもつながる。
◇政権運営、難しいかじ取りに
ただ、体制も無傷だったわけではない。モジタバ師は米側の攻撃で負傷したとみられ、就任後は一度も公の場には姿を見せていない。こうした状況下で、イランの体制の権力構造には変化が生じたとされる。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、イラン指導部は精鋭軍事組織・革命防衛隊の実力者を中心とした集団指導体制に移行。米国との交渉団にも数人が加わり、強硬な路線を追求するようになった。
米シンクタンク「湾岸国際フォーラム」は、ここ数カ月でイラン国内の政治的対立がかつてないほど深まったと指摘する。「仲裁者」だったハメネイ師が死亡したことで指導部内の競争が一層激化し、米国との交渉を巡っても意見の対立が生じていたという。
体制の変化は、今後の交渉の焦点である核開発などにも影響する可能性がある。
ウラン濃縮技術を「国家の誇り」と位置づけるイランにとって、核開発の放棄は受け入れがたい。ホルムズ海峡についても、トランプ氏は通航料なしでの開放に言及したのに対し、イランはオマーンと共同で海峡を管理し、船舶の安全確保と引き換えに「サービス料」を徴収する構想を描く。
◇経済危機の深刻化リスクも
イラン側は11月に中間選挙を控えるトランプ政権の「時間的制約」を理解しており、核開発などの主要議題でほとんど譲歩してこなかった。米国への譲歩を嫌う軍部が、今後もこれらの権利を強硬に主張していく可能性がある。
ただ、イラン側も交渉の完全な決裂や戦闘再開は望んでいない。3カ月以上に及ぶ戦闘で国内経済は急速に悪化したからだ。イラン当局は戦闘による損害額が2700億ドル(約43兆円)に上ると試算。米メディアによると、100万人以上が職を失った。
経済危機が深刻化すれば、昨年末から今年1月にかけて起きたような大規模な反政府デモを引き起こしかねない。戦闘終結後に民衆の怒りが指導部に向く可能性は捨てきれず、政権運営は難しいかじ取りを迫られそうだ。【カイロ古川幸奈】
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