強大権限で利益誘導か 東京女子医大元理事長の「張りぼて経営」
東京女子医科大の新校舎建設を巡り、背任容疑で逮捕された元理事長の岩本絹子容疑者(78)。名門医大のトップでコストカットを押し進めた一方で、側近らを重用して利益誘導を図る姿勢に厳しい目線が注がれてきた。
「金銭や金もうけに対しては強い執着心を持っていた」「自身の考えとは異なる意見を述べる者に対しては、組織から排除することを繰り返し行った」
大学が設置した第三者委員会が2024年8月に公表した調査報告書には、岩本元理事長を批判する言葉が並んだ。
大学の卒業生で産婦人科医の岩本元理事長は、14年12月の副理事長就任を機に、大学の経営に深く関わるようになった。
その年の2月、大学の付属病院で、男児(当時2歳)が鎮静剤「プロポフォール」を大量投与された後に死亡する医療事故があった。01年に心臓外科手術で女児(同12歳)が死亡した後に診療報酬の優遇措置が受けられる「特定機能病院」の承認が取り消されたように、このときも同様に承認が取り消された。
事故の影響による患者の減少は深刻で、収支は14~16年度で計58億円の赤字を計上した。
そうした中、経営再建を託されたのが岩本元理事長だった。直轄の部署として、人事や施設管理を担当する経営統括部が設置され、管理機能が岩本元理事長に集中するようになった。
強大な権限を背景に、人件費の抑制や不採算施設の集約など徹底的なコストカットを実施。収支は17年度に赤字を脱し、18、19の両年度は40億円超の黒字を計上した。
人件費は15年度の435億円から、理事長となっていた23年度には341億円に圧縮。11拠点あった医療施設やクリニックも7拠点に統廃合が進められた。
一方で、これらは人材の離反を招いた。17~23年度の間に、職員の2割弱に当たる1272人が退職。経営方針の対立から、集中治療室の医師らが一斉に去り、大学が再建策の柱に据えた「小児集中治療室(PICU)」も22年2月に運用から8カ月で停止に追い込まれた。
この間にあった新型コロナウイルス禍も重なり、20年度以降は医療収入が減少し、再び赤字に転落。付属病院の病床利用率は、23年度には5割ほどに落ち込み、単年で72億円の赤字を計上した。
ある大学関係者は「徹底した経費削減による張りぼての黒字化が岩本氏の経営方針だった」と振り返る。
人材やPICUといった将来性のある事業への投資を絞る一方、岩本元理事長は自身や「側近」の利益確保には余念がなかったと指摘される。
赤字に転落した以降も自身の報酬は増え続け、23年度には職員平均の5倍超となる3178万円が支払われた。加えて、同窓会組織の「至誠会」から19年9月まで、月額25万円の顧問料や年額100万円超の賞与を受け取っていた。
また、第三者委の調査では、側近で「至誠会」の元職員の女性(52)と元事務長の男性(56)は20年4月~22年4月に会から、それぞれ計4431万円と計4425万円の報酬を受領していた。
それにもかかわらず、同時期に経営統括部の業務を支援したとして、大学からもコンサル会社を介して元職員は計5511万円、元事務長は計1810万円を受け取ったという「給与の二重払い」疑惑が判明している。
さらに、第三者委は卒業生の親族向けの推薦入試や教職員の採用・昇進を巡って、大学と至誠会が寄付金を受け取っていたと認定。「相手の弱い立場に付け込み寄付を求める発想」を岩本元理事長が持ち込んだと指摘した。
女子医大の幹部職員は「気に入らない人間は遠ざけて、岩本元理事長の鶴の一声で意思決定される流れができあがっていった。その結果、大学のお金を好き放題にされてしまった」と話す。【遠藤龍、森田采花】
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