焼けた思い出、家族の元に 写真やデータ無償提供 大船渡山林火災

2025/03/19 06:45 

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 家族の思い出を届けたい――。岩手県大船渡市の大規模山林火災では民家100棟超が焼損し、住民の思い出の品も失われた。そんな中、市内の写真家が、小学校行事の写真を焼け出された家族に無償提供した。一家は14年前の東日本大震災の津波で家を失っており、2度目の喪失となったが、子どもたちが写った真新しい写真にちょっぴり心が安らいだ。

 「ほれ、持ってきたから」

 16日夕、大船渡市内の飲食店で村田友裕さん(72)が、袖野雄(そでのゆう)さん(45)、かず美さん(47)夫妻に子ども4人の小学校行事を写した写真10枚余りを手渡した。子どもたちが通った小学校の委託で撮影した入学式や卒業式、修学旅行などで、約500枚分のデジタルデータも贈呈した。

 袖野さんは火災で赤崎町外口地区の自宅が全焼した。震災では市中心部の自宅アパートが津波で被災した。当時4歳だった長男瑞己(みずき)さん(18)、1歳だった長女友愛(ゆあ)さん(15)の写真は水にぬれ、廃棄せざるを得なかった。

 7年前に自宅を再建し、震災後に生まれた次女璃乃(りの)さん(11)、次男陽向(ひなた)さん(8)も含め極力学校行事に参加して写真を撮るよう心掛けてきたという。しかし今回の火災では身の回り品は持ち出したが、子どもたちの写真や学校の卒業アルバムは自宅に置いたままだった。

 袖野さんは「村田さんの申し出は本当にありがたい」と頰を緩めた。今春高校を卒業し、親元を離れる瑞己さんは「修学旅行など小学生の時を思い出した」。地元の中学を卒業し、市内の高校に進学する友愛さんは「低学年の写真が懐かしい」とほほ笑んだ。

 村田さんは写真家の傍ら印刷業を営んでおり、袖野さん一家が住む赤崎地区の小学校から行事の撮影を依頼され、運動会や修学旅行などに同行している。震災では自宅が津波に遭い、2人の息子の写真が流された村田さんは、写真の力と思い出の品を失う寂しさを知る。

 袖野さんがテレビのニュースで取材に応じる姿を見て「赤崎地区なら自分が小学校の写真を撮っている。少しでも渡せたら」と思い立ち、知人を介して連絡を取った。袖野さんの子どもたちが写っているとみられる時期の画像データ約5000枚から選び出した。

 村田さんは「自分ができることをやったまで。子どもたちの記録の一部だが、手渡すことができてよかった」と静かに語った。今後も赤崎地区の知人に写真を渡すつもりだという。【奥田伸一】

毎日新聞

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