選択的夫婦別姓、教科書への掲載拡大 書きぶり、取り上げ方に差も

2025/03/30 05:00 

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 2026年度から主に高校1年生が使う教科書の検定結果が発表された。世相を反映するとも言われる教科書の最新版に、今後国会で議論される見込みの選択的夫婦別姓制度はどのように記述されているのか。

 ◇公共、家庭基礎、家庭総合に掲載

 「選択的夫婦別姓など、まだ国会での審議に至っていない検討課題もある」

 東京書籍は、家庭科の科目「家庭基礎」の「家族と法律」に関する単元で、結婚観や家族に対する考え方が「大きく変化した」ことや、現行民法が「個人の尊厳と両性の平等という面から見て不十分な部分」があったと説明した。

 その上で、女性の再婚禁止期間の廃止や非嫡出子の相続分に関する規定が順次法改正されてきた中で、夫婦別姓は30年近く国会審議さえされていない課題であると触れた。

 今回検定に合格した全ての教科書のうち、選択的夫婦別姓を扱った教科は公民と家庭科。前回の検定(20年度)は28点中20点に載ったが、今回は「公共」「家庭基礎」「家庭総合」の計30点のうち24点で取り上げられた。

 東京書籍は、夫婦別姓を認めない日本の民法が「女性差別的」であるとして、国連の女性差別撤廃委員会から複数回にわたって日本政府に改善勧告が出されたことも紹介しながら、「法律で夫婦同姓を義務付けている国は、日本以外に見当たらない」と記載した。

 不便を解消するため、運転免許証やマイナンバーカードで旧姓併記が可能になったものの、日常生活で旧姓が認められないため事実婚を選ぶ人がいることを書き込んだ。

 教育図書は、日本では「女性が自分の姓を男性の姓に合わせて変える場合が圧倒的に多い。姓を変えることによるさまざまな課題が指摘され」ているとした。

 話し合い活動の視点として「姓を変える場合、どんな手続きが必要か」や「子と親など家族同士で姓が違うことは気になるか」「別姓を選べる制度を採用した外国ではどうなっているか」を挙げ、生徒同士でメリットとデメリットを議論するよう促した。

 ◇韓国で姓の変更は「先祖に失礼」

 各国における結婚時の姓のあり方を紹介する教科書も目立った。

 実教出版は「多様な結婚のスタイル」として韓国やアメリカなど5カ国を紹介。韓国では血縁のつながりを重んじるため、「結婚により姓を変えることは先祖に対して失礼とみなされる」ために夫婦別姓をとっており、「子どもが生まれると父親の姓となる」と記述。中国は「基本的に夫婦別姓で子どもは父親の姓となるが、夫婦で新しい姓を考案し、その姓となることもできる」とした。

 米国は「夫婦どちらかの姓を名乗るカップルもいれば、夫婦別姓のカップルもいるように、法律に定められていない。自分たちで新しくつくった姓を名乗るケースもある」と説明した。

 夫婦同姓は日本の「伝統」だとする主張もあるが、日本については第一学習社が「1897(明治30)年までは夫婦別姓であったが、明治民法で夫婦同氏制となった」などと説明した。

 ◇指導要領に記載なく「各社の判断」

 一方、「公共」の複数の教科書は、内閣府が22年に発表した「家族の法制に関する世論調査」を年代や性別グラフ付きで引用。この調査では「夫婦同姓制度を維持した方がよい」27・0%▽「夫婦同姓を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」42・2%▽「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」28・9%――の3択となっており、賛成が女性や若い年代ほど多い傾向があることを示した教科書もあった。

 子どもの姓について触れた部分は公民と家庭科で計30点中11点。制度導入に対する反対意見としては「子の氏の安定性が損なわれる」(教育図書の家庭基礎)や「家族の一体感の薄れや相続問題が生じる」(大修館書店の家庭基礎)などが示された。

 記述の内容や取り上げ方が各社まちまちなのは、学ぶ内容を示した学習指導要領に夫婦別姓の記載がないからだ。文部科学省教科書課は「指導要領にないものを教科書にどのように記載するかは各社の判断だ」としている。【井川加菜美、深津誠、西本紗保美】

毎日新聞

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