三重の上げ馬神事 動物虐待批判に対応、今年も緩やかな坂駆け上がる

2025/05/04 19:41 

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 人馬一体で坂を駆け上がる奇祭「上げ馬神事」が4日、三重県桑名市の多度大社で行われた。「動物虐待では」との批判が相次いだことを受けて昨年、坂の上にあった高さ約2メートルの土壁を撤去。今年も緩やかな坂を駆け上がるかたちで実施された。人や馬にけがはなく、無事に1日目の神事を終えた。

 神事は南北朝時代から約700年続くとされる県無形民俗文化財。馬が土壁を越えられた回数で農作物の豊凶などを占ってきた。

 ところが2023年、馬1頭が骨折して殺処分されたことや、馬を興奮させるためにたたくといった威嚇行為が虐待に当たると強い批判にさらされた。複数の動物愛護団体が神事の関係者らを動物愛護法違反容疑で刑事告発。関係者12人が県警から書類送検された(全員が不起訴処分)。

 こうした事態を受けて、多度大社と氏子でつくる御厨(みくりや)総代会は今年、さらに馬への対応を改善し、むちの使用をやめた。

 この日は、神占いで選ばれた地元の若者5人が陣がさ、裃(かみしも)姿で2回ずつ計10回挑戦。9回成功し、1回は坂の途中で馬が失速して失敗となった。

 会場では、上げ馬神事に反対する人たちが「虐待に目をつぶるな」などと書かれた紙を掲げて抗議する一幕も。一方、岐阜県各務原市から見物に来た男性(58)は「改善されているから良いと思う。伝統は守る必要がある」と話していた。

 御厨総代会の伊藤幹夫代表(69)は「人馬ともに無事だったことが一番大事。明日の2日目も気を引き締めたい」と語った。

 ◇神事原因で死んだ馬の慰霊祭も

 多くの人出でにぎわう上げ馬神事が終わった多度大社(桑名市)の近くで毎年5月7日、「祭馬慰霊祭」がひっそりと営まれている。神事が原因で死んだ馬の霊を慰め、関係者が祭礼の無事終了を報告する行事だ。

 多度大社から県道26号に向かって南へ200メートル進んだ道路沿いに高さ2メートル余りの黒い石碑が建っている。正面には「多度祭之華祭馬慰霊碑」の文字。1979年に建立されたという。

 多度大社といえば5月4、5の両日にある上げ馬神事が注目されがちだが、これらの神事は「多度祭」という例祭の一部であり、慰霊祭もその一環と位置付けられている。

 参加するのは上げ馬神事の関係者たち。過去に神事で死んだ馬に対し、祭馬だったことをたたえてその霊を慰め、献花している。神事で死んだ馬がいれば、そのたてがみを奉納してきた。

 関係者は「上げ馬神事に比べたら慰霊祭は有名ではないが、馬を大切に扱う気持ちは昔から変わっていない」と話す。慰霊碑は自由にお参りできるが、なま物のお供えは腐るので控えてほしいとのことだった。【渋谷雅也、長谷山寧音】

毎日新聞

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